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  • 池田卓夫 Takuo Ikeda

尾高忠明、石上真由子とカール・ベーム

最終更新: 2019年5月13日


クラシックディスク・今月の3点(2019年1月)



1)ブルックナー「交響曲第8番」(ハース版)

尾高忠明指揮大阪フィルハーモニー交響楽団

若き日に父(尾高尚忠)と同じ留学先のウィーンで、ハンス・スワロフスキー教授に師事。帰国して間もないころの尾高がNHKFMの音楽番組に出演、カール・シューリヒト指揮ウィーン・フィルによるブルックナー交響曲集を理想の録音に挙げ「自分も将来、こうした作品で評価を得たい」と語っていたのを今も覚えている。


2018年4月、1年間のミュージック・アドヴァイザー期間を経て大阪フィルハーモニー交響楽団第3代音楽監督に就いたとき、尾高は古希(70歳)のマエストロになっていた。就任披露に当たる大阪フェスティバルホールの第517回定期演奏会では満を持し、ブルックナーの大作「交響曲第8番」を指揮した。本盤はその記録。大阪フィルは創立者で初代音楽監督の朝比奈隆とともにブルックナー普及に尽くしたパイオニアであり、朝比奈との数多くのライヴ盤の他に、第2代音楽監督の大植英次も同じ曲のCDを残している。それぞれがブルックナーに特別の思いを持つ指揮者、オーケストラの共演だけに、非常に密度の濃い音楽が繰り広げられ、その場に居合わせなかった不運を嘆くほどの出来栄えをしめしている。


今さらシューリヒトやクナッパーツブッシュ、チェリビダッケらの名演を引き出すつもりはない。自分も1人の日本人音楽ファンとして朝比奈&大阪フィルのブルックナーに育てられ、尾高の数多くの演奏会にも親しんできた。それぞれの30年、40年という積み重ねの上に、ごく自然と、なのに絶対的な存在感をもって現れた「ブル8」の感動は大きい。(フォンテック)


2)ヤナーチェク「ヴァイオリン・ソナタ」/ラヴェル「ハバネラ形式のヴォカリーズ」/ラフマニノフ「ヴォカリーズ」/幸田延「ヴァイオリン・ソナタ」

石上真由子(ヴァイオリン)、船橋美穂(ピアノ)

日本コロムビアが2019年1月23日に5点の新録音を同時にリリースして立ち上げた「Opus One(オーパス・ワン)」レーベル。担当の制作ディレクターそれぞれが独自の審美眼で20代の新進演奏家を発掘、必ず日本人作曲家の作品1つを加える選曲のディスクをセッション録音で出していく。ヴィジュアルにもこだわり、ファッション面などのアドバイザーに湯山玲子を迎えている。それぞれの収録時間を短めにして価格をミドルゾーンに抑え、より気軽にアクセスしてもらおうとの配慮も感じる。


第1作はチェロの笹沼樹、ヴァイオリンの石上真由子、ソプラノの鈴木玲奈、ピアノの古海行子、ギターの秋田勇魚の5人。中でも2008年の日本音楽コンクール2位の実力を備えながら、医師免許も持つという石上の激しい表出力に富む演奏に、強い印象を受けた。収録は2018年10月15&16日の2日間、埼玉県富士見市の市民文化会館「キラリ☆ふじみ」。セッションながら過剰な編集を施さず、ライヴ録音に匹敵する荒削りの音楽を存分に再現していく。特に「得意にしている」というヤナーチェクの核心に迫る意思の強さは凄い。すでに協奏曲で共演したサラリーマン兼指揮者(こちらも「二足のわらじ」だ)、坂入健司郎による熱い応援メッセージのライナーノートも、面白い。シリーズの今後に期待しよう。(コロムビア)


3)モーツァルト「交響曲全集」(第1〜41番「ジュピター」)

カール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ユニバーサルの担当者Fさんが昨年(2018年)暮れ、「世界初のSACDシングルレイヤー盤での再発売です」といって送ってこられたとき、「今さらベームのモーツァルト?」と思ったのだが、私の方が愚かであった。子どものころ、親戚の家でドイッチェ・グラモフォンの黄色いレーベル、老いた指揮者の怖い白黒肖像写真のジャケットのLP盤をかけてもらい、初めて聴いた「第40番&41番《ジュピター》」が、自分のモーツァルト交響曲初体験だった。暗い感じの外見とは正反対、優美で巨大な音楽の像に驚いた思い出がある。今年(2019年)のベーム(1894〜1981年)生誕125周年を記念した日本独自のリリースで4枚ずつ、上下2巻に収められている。


録音時期は1959〜1968年の足かけ10年に及ぶ。天下のベルリン・フィルといっても初期の作品はあまり演奏する機会がないだろうし、すべてに厳格だったベームとの仕事は楽しいことばかりではなかったろう。しかしドイツ=オーストリア音楽の「語法」の基盤を共有し、無駄のない立ち居振る舞いでベームの要求にこたえるベルリン・フィルのアンサンブルはどこまでも晴朗でみずみずしく、ディスク8枚を一気に聴かせてしまう。ピリオド楽器の音や奏法にすっかり慣れた耳でベーム&ベルリン・フィルのモーツァルトに向き合う不安は瞬く間に消え、今ではあまり聴けなくなった辛口の引き締まった音楽にとことん酔わされた。私たちが過去半世紀、何を獲得して何を喪失したのか、じっくり考えることができた。(ユニバーサル)







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