• 池田卓夫 Takuo Ikeda

小菅優&藤倉大・上原彩子&原田慶太楼田野倉雅秋&渡邉康雄

クラシックディスク・今月の3点(2022年5月)


藤倉大「ピアノ協奏曲第3番《インパルス》」/ラヴェル「ピアノ協奏曲」(両手)/藤倉大「《WHIM》〜ピアノ・ソロのための(ピアノ協奏曲第3番《インパルス》より)」

小菅優(ピアノ)

ライアン・ウィグルワース指揮BBC交響楽団

2018年にモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、読売日本交響楽団、スイス・ロマンド管弦楽団の共同委嘱で作曲した藤倉3作目のピアノ協奏曲。3楽団すべての初演を担った小菅が藤倉、指揮の山田和樹に「カデンツァを聴いてほしい」と意見を求めたことが、ソロ曲《WHIM》という素晴らしい副産物を生んだ。《インパルス》自体、藤倉自身が「他の2つの協奏曲と違い、全体的に気持ち良い感覚」と記したように、特殊な楽器の追加や物語を離れ、ピアノの様々な音の信号にオーケストラが素早く打ち返す運動性に面白さがある。小菅のかっちりクリスタルでありながら、繊細で透明な感触を保つピアノの魅力を味わえる。


2021年10月14--15日、ロンドンのBBC(英国放送協会)マイダ・ヴェール第1スタジオでのセッション録音では、BBC交響楽団を英国の若手作曲家でもあるR・ウィグルワースが指揮、楽曲と小菅への積極的なコミットメントをみせる。小菅はラヴェルのト長調協奏曲を2022年5月25&26日、サントリーホールのNHK交響楽団定期演奏会、ファビオ・ルイージの指揮でも弾いた。第2楽章の深い味わいに実演のメリットを感じた半面、両端楽章の寸分違わない再現の妙ではセッション録音に軍配が上がるようにも思えた。要するに、ラヴェルの名演を同じピアニストで短期間に録音とライヴ、2度も楽しめたのは幸せだった。SACDと通常CDのハイブリッド盤(ソニーミュージック)


ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」/チャイコフスキー「同第1番」「18の小品作品72より第5曲《瞑想曲》」

上原彩子(ピアノ)、原田慶太楼指揮日本フィルハーモニー交響楽団

2022年2月27日、サントリーホールでの「上原彩子デビュー20周年記念コンサート」のライヴ録音。年数のカウントは上原が2002年6月、第12回チャイコフスキー国際音楽コンクールのピアノ部門で日本人初、女性初の「ダブル・ファースト」の優勝を始点とする。私がその前、上原と全く偶然で知り合い、27年もフォローしてきた経緯は演奏会評に書いた。

https://www.iketakuhonpo.com/post/%E6%A3%AE%E6%9C%AC%E9%9A%BC%E5%A4%AA%E3%81%8B%E3%82%89%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E5%BD%A9%E5%AD%90%E3%81%B8%E3%80%9C%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%AB%E3%80%8C%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E3%81%84%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%91%BD%E9%A1%8C%E3%81%8B%E8%80%83%E3%81%88%E3%81%9F%E3%80%82


ラフマニノフでもチャイコフスキーでも、上っ面のメロディーの美しさ、ロマンティックな雰囲気などには目もくれず、ロシアの作品が西洋音楽史上で確立した独自の存在意義、楽曲が生まれた時代の美意識、ロシア人の錯綜した人間性などに深い楔を打ち込み、すべての音に強い説得力と味わいを与えているのが素晴らしい。息長く良質な職人芸の最上の成果だ。


アメリカンなイメージが先行する指揮者、原田は米国での修業中、時間を見つけてはサンクトペテルブルクやモスクワを訪れ、ロシア伝統の指揮法を学んだ。日本フィルから分厚く、たっぷりした響きを引き出し、フレーズを情感豊かに歌わせながらソリストにぴたりとつける手腕は、なかなか見事といえる。(キングレコード)


ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ全曲(第1ー3番、FAEソナタのスケルツォ)」

田野倉雅秋(ヴァイオリン)、渡邉康雄(ピアノ)

2021年2月20日、東京文化会館小ホールでのリサイタルのライヴ録音。私は当日の客席で聴き、次のレビューを書いた。

https://www.iketakuhonpo.com/post/%E6%B8%A1%E9%82%89%E5%BA%B7%E9%9B%84%E3%81%AE%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%80%81%E7%94%B0%E9%87%8E%E5%80%89%E9%9B%85%E7%A7%8B%E3%81%AE%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%A7%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF%EF%BC%93%E6%9B%B2-%CE%B1


とりわけ「室内楽デュオの濃密な音楽の会話に落ち着いて耳を傾けることができた。2人とも、ショウビジネスの発想の対極に位置する演奏家で『見せよう』はもちろん『聴かせよう』『楽しませよう』の意識すらなく、ひたすら作品の中に自分たちを潜らせる」の部分に、2人のアート(手法)の特色が集約されている。心に染み入る微細な音色の変化、重なり合いを通じ、私たちはいつの間にか、ブラームスの宇宙に浸り切ることができる。CD化により「聴くほどに味わい深い」美点を半永久的に享受できるようになったのは幸いだ。

(ライヴノーツ=ナミ・レコード)



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