名古屋フィルハーモニー交響楽団東京特別公演(2022年1月24日、サントリーホール)
指揮=小泉和裕(音楽監督)、ピアノ=小林海都※、コンサートマスター=日比浩一
モーツァルト「交響曲第31番《パリ》」
ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」※
チャイコフスキー「交響曲第1番《冬の日の幻想》」
2021年の英リーズ国際ピアノ・コンクールで内田光子以来46年ぶりの日本人最高位(第2位)を得た小林海都(1995年横浜市生まれ)が来日不能となったロシア人ピアニストの代役に起用されたと知り、さらに期待の高まった名フィル東京公演。小泉和裕が指揮するラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」といえば1975年ころ、日本でも人気が高かったブラジル出身のピアニストのクリスティーナ・オルティス、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と英EMI(現ワーナーミュージック、カップリングはドホナーニの「《キラキラ星》変奏曲」)に録音した〝史実〟に思いをはせる。小泉は当時26歳、1973年の第3回カラヤン国際指揮者コンクール優勝を受け、欧米での華々しいキャリアを歩み始めた時期だ。72歳の今、小泉は飛騨古川で農業も手がけながら名フィル、東京都交響楽団(終身名誉指揮者)、九州交響楽団(音楽監督)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(特別客演指揮者)など国内の主要オーケストラの指揮に専念する。自身で選択した「日本の指揮者」の王道を歩んでいる。
ピリオド(作曲当時の)奏法や対向配置には目もくれず、カラヤン流のゴージャスな管弦楽の再現に徹する姿勢。下半身は微動だにせず、両手を大きく上下させる指揮スタイルも現在では「古風」な味わいを漂わせる。モーツァルトの「《パリ》交響曲」ではそのザックリ感が、「なんぼ何でも大味ではないか」と疑問に思わないでもなかったが、自身のスタイルを頑として貫く姿勢に、妙な尊敬を覚えた。卓越したオーケストラ・トレーナーの能力を注ぎ込み、弦5部のバランスと艶に磨きをかけた名フィルと、ブレないまま円熟した指揮で奏でるチャイコフスキー。竹を割ったような爽快さ、味のある旋律を大きく鳴らす率直さはコロナ禍の長期化、オミクロン株感染の急拡大で疲弊した東京都民に、間違いなく力を授けた。
小林のピアノは期待以上だった。最初の打鍵からパワーに満ち、クリスタルと形容したら実態を正しく伝えられない気がする分厚い鋼のような音色、小泉が青年時と変わらないパワーでゴージャスに鳴らす名フィルーーラフマニノフ晩年のアメリカ時代に獲得した様々な表現語法を克明に伝えたーーに負けない音量など、コンクール歴を裏付ける資質と力量の持ち主だ。それ以上に必死感がなく、絶えず余裕をもって指揮者、オーケストラとの会話を楽しむゆとりが、日本の新しい世代を印象づけた。感染症対策もあり、ソリストのアンコールを聴けずに終わったのは、ちょっと残念だった。
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