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小倉貴久子、シュレーターの美を明かす

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

フォルテピアノ奏者の小倉貴久子が東京オペラシティの近江楽堂でこつこつと続けている「モーツアルトのクラヴィーアのある部屋」の第36回(!)はバッハの末っ子ヨハン・クリスティアン・バッハと親交があり、モーツァルトにも影響を与えたドイツ生まれ、ロンドン在住の作曲家ヨハン・ザムエル・シュレーター(1752?〜1788)に光を当てた。


小倉は音楽史が展開していくなか、時代の主流をなした作曲家の傍らに「必ずもっと数多くの作曲家がいて、忘れ去るにはもったいない名曲も埋もれている」と確信。モーァルトと、その生涯さまざまな場面でNebensatz(副文)的に存在した作曲家を対比させる形の演奏会を続けてきた。


シュレーターは確かにJ・C・バッハとハイドン、モーツァルトの接点に存在し、時代様式としてもそれらをつなぐ役割を果たしたようだ。小倉の生きる歓びを謳歌するようなフォルテピアノ演奏は、約250年前の作品たちに新たな生命の息吹を与える。ヴァイオリンの渡邉さとみ、ヴァイオリン&ヴィオラの松永綾子、チェロの懸田貴嗣もそれぞれヨーロッパの演奏経験豊富なピリオド楽器の名手であり、小倉と息の合ったアンサンブルを繰り広げる。かつての不安定な古楽演奏とは一線を画す、ゆるぎなく高水準のパフォーマンスである。


もちろんシュレーター作品は興味深いものだったが、最後に置かれたモーツァルトの大作「クラヴィーアとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための四重奏曲K478」はト短調という運命的な調性もあって、最も聴き応えがあった。選曲の面白さと演奏の良さで人気を博し、長く続いているシリーズというのが納得できた(2019年3月27日)。

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