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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

宮崎国際音楽祭オペラ「ラ・ボエーム」(改訂版)


中央が佐藤寿美総監督、右が徳永二男音楽監督

第24回宮崎国際音楽祭の記者会見が2019年2月7日、東京・銀座の三笠会館であった。


4月28日〜5月19日の会期は佐藤寿美総監督が冒頭で指摘したように「平成と◯◯の新旧年号をまたぐ」時期に当たる。出演アーティストも昭和と平成の生まれを程よく組み合わせ、世代間の交流や継承にも力を入れるとしている。


ここ数年、広上淳一の指揮と中村恵里のヒロイン、福井敬の強靭なテノール、地元アマチュア合唱団の組み合わせで人気を呼んでいる最終日のオペラ演奏会形式上演。今年はプッチーニの「ラ・ボエーム」と決まり、マルチェッロに甲斐榮次郎、ムゼッタに鷲尾麻衣らの豪華キャストだ。ただキャッチフレーズの「青春の光と影」だけはキャストの平均年齢に照らすと衣装やカツラ、メイクで誤魔化せない演奏会形式の場合、なんぼなんでも「盛り過ぎ」の感を否めない。成功の美酒の味は忘れがたいとしても、中毒に陥ると思考が停止する。


ザルツブルク音楽祭総監督やパリ・オペラ座総裁として腕を振るったオペラの名プロデューサー、故ジェラール・モルティエから私が直接教わったことの一つに「《コジ・ファン・トゥッテ》や《ラ・ボエーム》などは若者たちのオペラだけに、歌や演技がいかに素晴らしくても、役柄の年齢とかけ離れた歌手をキャスティングすべきではない」があった。往年の大ワーグナー歌手、アニア・シリヤも「ミレッラ(フレーニ)と私は親友ながら、還暦(60歳)を過ぎてもミミを歌うのは賛成しかねる。私は依然、サロメの最高音を出せるけど、あれは少女の役。今は母親のヘロディアスに回っている。サロメを何度も演じたソプラノが手がけるヘロディアスには、それなりの説得力があるはずと確信している」と、私に語った。


かつてファビオ・ルイージが札幌のパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)の音楽監督だった時代、「ラ・ボエーム」の演奏会形式で日本とヨーロッパの若い歌手たちを交流させながら、目覚ましい成果を上げた記憶を呼び覚まされた。「芸術家たるもの、成功体験を引きずり続けてはならない。常に内容を一新し、聴衆の先頭に立って前に進む気構えが必要だ」。これは日本で亡くなった大ヴァイオリニスト、シモン・ゴールトベルクが最晩年にNHKの番組で語った言葉だ。宮崎国際音楽祭の初代音楽監督、アイザック・スターンはゴールトベルクと親しく、その死後も夫人の山根ゴールトベルク美代子さんのケアに心を配る人柄だったことをふと、思い出した。好評の企画、定番の配役だとしても、つねに次の布石を打っておかないと、芸術は陳腐化する。音楽祭は来年、第25回の節目を迎える。



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