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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

宮崎国際音楽祭ラ・ボエーム、広上淳一の指揮に進境


第24回宮崎国際音楽祭最終公演、「プッチーニの世界『青春の光と影』」でオペラ「ラ・ボエーム」演奏会形式上演を2019年5月19日、宮崎県立芸術劇場メイキット県民文化センターで聴いた。第1ヴァイオリンだけでもライナー・キュッヒル、徳永二男、小森谷巧、三浦章宏、扇谷泰朋…とコンサートマスター級がずらり。広上淳一は名手ぞろいの音楽祭管弦楽団を信頼、要所要所を締める以外は流れを重視した指揮に徹し、室内楽のように美しく透明な和声感や色彩をプッチーニのスコアから引き出した。昨年の「蝶々夫人」までと比べても、直情径行型から内省的な距離感を伴った指揮への変化が明らかで、さらに新しい領域への進境が聴けたのは嬉しい。地域に根ざした音楽祭への意識も明確で、カーテンコールの後にアマチュアの音楽祭合唱団、宮崎県吹奏楽連盟有志を呼び戻し、第2幕フィナーレをアンコールするサービスも、すでに恒例のものだ。


キャストも常連の中村恵里(ミミ)、福井敬(ロドルフォ)、甲斐栄次郎(マルチェッロ)をはじめ、強力な顔触れ。ムゼッタの鷲尾麻衣は第2幕のワルツでマルチェッロよりも、マエストロを口説いて爆笑を誘った。ショナールの今村雅彦、コッリーネの伊藤純、ブノア&アルチンドロの松森治も堅実に役をこなすなか、贅沢にもパルピニョールで現れた清水徹太郎が強烈な存在感を示した。合唱指揮の浅井隆仁は日本フィルの「カヴァレリア・ルスティカーナ」と掛け持ちのハードスケジュールを大過なく終えて、ホッとしていた。


第3幕の中村と甲斐のデュエット、さらに福井が加わる場面では世界の大舞台で歌ってきた2人と、過去30年にわたって日本のオペラ界をけん引してきた大テノールによる濃密な音楽の時間を満喫した。中村のミミは可憐ながら芯の強いキャラクターを巧みに演じ、甲斐のマルチェッロには青春の輝きがある。福井は「冷たい手」のアリアの最高音も頑張って決め、年齢を考えると驚異のタフネスに驚く。第1幕でミミに言い寄るあたりは、少し好色おじさんぶりが目立ち、ムゼッタに擦り寄る広上ともども、オペラの路線がエロおやじ系に変質する危惧を覚えたが、3幕以降の献身的な没入により、最後は看板通りに「青春の光と影」に着地して幸いだった。


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