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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ「Super Angels」@新国立劇場

更新日:2021年8月22日


新国立劇場が島田雅彦に台本、渋谷慶一郎に作曲を委嘱、同劇場オペラ芸術監督の大野和士が総合プロデュースと指揮、演劇芸術監督の小川絵梨子が演出監修を担当した新作「子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ《Super Angels》」の世界初演を2021年8月21日、同劇場オペラパレス(大劇場)で観た。2019年に記者発表、2020年の東京オリンピックに合わせて上演する計画だったが、コロナ禍で1年延期され、今夏のオリンピックとパラリンピックの会期の谷間に日の目を見た。


(いずれもONTOMOオンラインの拙稿)



針生康の総合舞台美術(装置・衣装・照明・映像監督)は新鮮で美しく、小川の群衆処理も適切。渋谷の編み出した楽曲、大野が東京フィルハーモニー交響楽団を指揮した管弦楽とも説得力がある。「人間」側主役アキラのカウンターテナー、藤木大地の美声と明瞭な日本語を駆使した演技の説得力をはじめ、エリカの三宅理恵(ソプラノ)、ジョージの成田博之(バリトン)、ルイジ&異端1の小泉詠子(メゾソプラノ)らキャスト、新国立劇場合唱団の水準は高い。世田谷ジュニア合唱団、視聴覚障がいの子どもたちを中心とするホワイトハンドコーラスNIPPONの懸命の演唱も胸を打ち、強い印象を残す。「手話の合唱」が放つメッセージの強さに、思わず涙腺がゆるむ。ちょっと気の毒な衣装があったにもかかわらず、新国立劇場バレエ団のソリストたちも万全の踊りを披露した。全員が新作を世に送り出す責任を十全に果たした。


それでも圧倒的感動までに至らなかった要因を私なりに考えると、次の3点に要約される。


1)ゴーレム3役の「オルタ3」は渋谷が「なぜか、アンドロイドはせつないのです」と語った通り、まだまだ不器用な動きともども独特の哀感を放ち好ましい半面、日本語があまりに聴き取りにくく、字幕を見ないと何を言っているか全くわからない。アンドロイドの孤軍奮闘が生身の人間の人海戦術に埋もれがちで、絶えず「もっと目立ってほしい、活躍してほしい」と、だんだん欲求不満が募る。

2)島田の台本が何を問題意識(近未来への警鐘、シンプルな自然回帰など)として書かれ、どのようなメッセージを放とうとしているのかは明快ながら、語彙の選択が硬めで漢字の熟語が多く、ひらがなの大和言葉で柔らかく子どもたちに語りかける要素に不足する。場面場面の観念的イメージの説明が先行するため、全体の筋書きを1回の鑑賞で把握するのは大人にも大変だと思われる。

3)2019年の記者会見では劇場入口から中劇場へと向かう階段を舞台に見立て、手前のエントランスゾーンにジャーナリストやカメラマンが座った。高い天井の明るくオープンな空間でオルタ3が自在に振る舞い、小編成のオーケストラと渋谷のピアノ演奏がライブハウス的な親近感を発揮した。〝完成品〟は堂々グランドオペラとなり大劇場で上演された結果、客席の親子連れとアンドロイドの間の距離が広がり過ぎてしまった。


東京芸術劇場が8月12&13日に上演したレオナルド・エヴァース作曲「子どものためのオペラ《ゴールド!》」は上演時間1時間弱、キャストはソプラノと演技もこなす打楽器奏者の2人だけ。グリム童話を下敷きにしたシンプルな構成で、メッセージをストレートに伝えていた。「Super Angels」も一通りの段取り、状況説明を終えた先の第5場「森」から第6場「開拓地」にかけての終盤はかなりわかりやすく、もともと美しいビジュアルにも一層の磨きがかかっていた。大野は2年前のインタビューで「構成は1幕物で、だいたい80〜90分になります。アニメ映画の長さも考慮に入れ、70分より少し長いサイズとしました」と語っていたが、出来上がった作品に接した第一印象では、もう少し刈り込んでも良さそうだ。


ともあれ大勢の子どもたちも交えた本番が万全の感染症対策を施し、有観客で上演されたことに感謝する。実現までの関係者、出演者の努力にも最大級の賛辞を表明しておきたい。




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