• 池田卓夫 Takuo Ikeda

大野和士と東京都交響楽団の4月定期、いよいよ本領発揮の手応え

更新日:5月6日


東京都交響楽団第948回定期演奏会Aシリーズ(2022年4月22日、東京文化会館大ホール)

指揮=大野和士、ピアノ=藤田真央※、コンサートマスター=矢部達哉

シルヴェストロフ《ウクライナへの祈り》(アンドレアス・ジースによる管弦楽編曲版=日本初演)

シューマン「ピアノ協奏曲」※

ソリスト・アンコール:J・S・バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」より「ガヴォット」(ラフマニノフによるピアノ独奏編曲版)

R・シュトラウス「交響詩《英雄の生涯》」(ヴァイオリン独奏=矢部達哉)


同第949回定期演奏会Cシリーズ(4月28日、東京芸術劇場コンサートホール)

指揮=大野和士、オーボエ=広田智之※、コンサートマスター=矢部達哉

R・シュトラウス「オーボエ協奏曲」※

マーラー「交響曲第5番」


大野和士(1960ー)がプロ・デビューし、国内で最初に得たポストは若杉弘音楽監督が率いた時期の東京都交響楽団(都響)指揮者だった。1988年に都響がヨーロッパ・ツアーでフランクフルトに来演した時に私は若杉を初めてインタビュー、その晩、郊外のヘキスト・ヤールフンデルトハレに武満徹「遠い呼び聲の彼方へ」(ヴァイオリン独奏は当時のコンサートマスター、古澤巌)、マーラー「交響曲第9番」の演奏会を聴きに出かけた。会場で若杉夫人で往年の名アルト歌手、長野羊奈子とともに現れた青年が当時28歳の大野だった。間もなく国外の活動を本格化、国内では東京フィルハーモニー交響楽団常任指揮者などを務め、古巣の都響へ音楽監督として戻ってきたのは2015年。契約は今のところ、2026年まで延長されている。


大野自身が「東日本大震災後の日本の復興と2020年の東京オリンピック&パラリンピックをにらんで」と語り、満を持しての就任だったはずだ。ところが、中堅から巨匠に向けた過渡期にでも差し掛かっていたのか、都響となかなか目立った成果を上げられない中、コロナ禍が始まった。長い雌伏の時期を矢部をはじめとする都響楽員とともに乗り切り、ようやく思う存分に演奏できる態勢が整った今、大野と都響の「黄金期」到来を告げるような2022年4月の定期を聴いた。高校生時代に都響定期会員になった長年の聴衆の1人として「辛抱強く待ったかいがあった」と心から、うれしくなった。


《英雄の生涯》のR・シュトラウスも、「交響曲第5番」のマーラーも作曲家であると同時にオペラ指揮者だった。現場で様々な音響効果を確かめながら自作に注ぎ込んだそれぞれのドラマトゥルギー、ストーリーを、現在の新国立劇場オペラ芸術監督に至るまで一貫してオペラを活動の基本に置いてきた大野は、稀に見る解像度の高さで再現した。シュトラウスの自由自在なストーリーの語りかけ、極限まで振幅をとりながら描くマーラーの揺らぎ! 


ソロも担った矢部や広田ら現在50代の首席奏者たちが都響の優れたアンサンブルにさらなる磨きをかけ、ヨーロッパの中堅オーケストラに匹敵する表現力で、大野の指揮に応える。ホルンの西條貴人、ファゴットの長哲也らより若い世代のソロも見事だ。矢部の《英雄の生涯》のソロは何度か聴いたが、今回が最も肩の力も抜け、自由闊達な語りくちだった。広田は少し地味ながら、シュトラウス晩年の味わいを適確に描いた。渡邉曉雄からモーシェ・アツモン、若杉、ガリー・ベルティーニ、エリアフ・インバル…と受け継がれてきた都響のマーラー演奏の歴史は今回、大野と矢部の日本人チームで次のステージに進んだと思う。ハープに吉野直子が入る、豪華なサプライズもあった。大野&都響の今後は、本当に楽しみだ。


藤田真央のシューマン。2020年9月のN響定期で初めて弾いた時より第1楽章は引き締まったが、第2楽章はまだ試行錯誤、第3楽章で本領発揮という感じで、確かな進歩をみせた。あれこれ仕掛ける真央に対し、大野は「面白い!」と率直に楽しみながら指揮をしていた。

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