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地味ながら温かい佐々木崇のシューマン

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

クリスマスの季節の明治神宮表参道。JR原宿駅から国道246号線(青山通り)にかけての街路樹イルミネーションはLED化以降、洗練の度を高めた。2019年12月13日、表参道ヒルズの駐車場に車を入れ、斜向かいのカワイ表参道コンサートサロン・パウぜにピアニスト、佐々木崇のシューマンリサイタル(全12回)の《シリーズ1》(2018−2019年)vol.4「音楽の構造改革と詩情」を聴きに出かけた。2023年まで年2回ずつ計12回のリサイタルを通じ、「R・シューマンの初期ピアノ曲のモットー構想ー象徴的核音型の回帰手法をめぐってー」で東京藝術大学博士号を取得するなど、長く傾倒してきた作曲家の世界を様々な角度から究める壮大なシリーズだ。


佐々木の演奏を聴くのは2008年、彼が第3位に入った第6回東京音楽コンクールの本選審査員を務めて以来11年ぶりだった。現在はピアノ教師をしながら、故郷川越と東京を中心に積極的な演奏活動を続けているという。俳優の佐々木崇とは同姓同名だが、全くの別人。


第4回は「謝肉祭」作品9、弦に長岡聡季を迎えてヴァイオリンで「ヴァイオリン・ソナタ第1番」作品105、ヴィオラで「おとぎの絵本」作品113とソロに初期、室内楽に後期の作品を振り分けたプログラム。ピアノは当然、シゲル・カワイのフルコンサートグランドだった。「謝肉祭」はちょうど2週間前、第4回東京音楽コンクール・ピアノ部門最高位(1位なしの2位)だった齊藤一也の名演(ピアノはハンブルク・スタインウェイ)を出身地・韮崎(山梨県)で聴いたばかり。どうしても比べてしまうが、横方向のフレーズ展開に和声が自然に乗り、リズムと推進力が際立つ齊藤に対し、佐々木は生真面目な性格もあるのか、和音の「縦の線」をきっちり合わせようとするあまり、音楽のつくりが縦割りになりがちで、若いシューマンのエネルギーの発露を削いでしまった感がある。


耳を傾け続けるうち「この几帳面さ、シューマンへの深すぎる愛情は室内楽でこそ生きるはずだ」と確信、果たして後半、ヴァイオリンもヴィオラも極めて的確な再現能力を発揮した長岡とのデュオでは佐々木の繊細で多感、深い洞察に満ちたピアノに感心した。「静かな余韻を残して終わる素晴らしい作品のあと、アンコールは考えられません。皆さん、今夜はこの余韻とともにお帰りください。ありがとうございました」という佐々木の〆の言葉、実感がこもっていた。今後のシリーズ展開も楽しみだ。

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