クラシックディスク・今月の3点(2020年8月)
「Live from Muza!」
モーツァルト「フルート私重奏曲第3番」「交響曲第35番《ハフナー》」「ピアノ協奏曲第13番」
八木瑛子(フルート)、水谷晃(ヴァイオリン)、武生直子(ヴィオラ)、伊藤文嗣(チェロ)=四重奏曲、金子三勇士(ピアノ)
原田慶太楼指揮東京交響楽団
2020年3月14日、ミューザ川崎シンフォニーホールで行われた同ホール主催「モーツァルト・マチネ」第40回の実況録音。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を受け、無観客演奏の動画配信とライヴ盤制作に形を変え、実現した。当日、会場内取材を担当したときのレビューを先ず、再掲する:
もちろん同じ演奏だから、詳細は旧稿に譲るとして、何より2人の若いアーティストが現時点で備え放つ魅力のことごとくが克明に記録され、より多くの人々の耳に触れる場を得たのが喜ばしい。コンサートマスター水谷をはじめとする東響首席奏者たちの傑出した腕前も、改めて確認できる。隅々まで爽やかな感動に満たされたモーツァルトだ。金子のソロ、オーケストラによる中村八大「上を向いて歩こう」のアンコールがカットされたのは少し残念だが、格調高いモーツァルト・アルバムとして、美しく仕上がってよかった。
(オクタヴィア・レコード)
「MY FAVORITES~Morgen!~明日!」
森下幸路(ヴァイオリン)、川畑陽子(ピアノ)
大阪交響楽団首席ソロ・コンサートマスター、森下による「ライヴ・ノーツ」レーベルからのアルバム第4作。2020年4月3日、千葉県・白井市文化会館大ホールのセッション録音だ。幼少時に米国で暮らした「帰国子女」であり、桐朋学園大学在学中にも米シンシナティ大学特別奨学生として名教師ドロシー・ディレーに師事するなど、アメリカとの縁が深い。クライスラーの「愛の悲しみ」で始まるこの小品集にもフォスターの「金髪のジェニー」「故郷の人々(スワニー河)」、メキシコの国民的作曲家ポンセの「エストレリータ(私の小さな星)」を交え、アメリカ大陸への思いを伝える。
たった1日のセッションで16曲を収められたのは、森下がどの作品もすでに十分弾きこんできた証左でもあり、隅々まで心の通った歌を奏でている。現在の森下は日本楽壇の最長老となった名誉指揮者の外山雄三とともに、大阪響の水準向上に力を入れる。オーケストラにとって欠かせないドイツ=オーストリア音楽からもベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームス、コルンゴルト…と多彩な時代の小品をちりばめ、最後にR・シュトラウスの歌曲(リート)の傑作2つーー「万霊節」と「明日!(モルゲン!)」でアルバムを閉じる。日々の演奏活動を通じた長年の蓄積は、しっかりと表現の多様性に実を結んでいる。
(ナミ・レコード)
「Two Pianos」
ラフマニノフ「2台のピアノのための組曲第2番」/シューベルト「創作主題による8つの変奏曲D.813」/ラヴェル「スペイン狂詩曲」
反田恭平、務川慧悟(ピアノ)
シューベルトだけが1台4手連弾で、他は2台ピアノ。務川はラヴェルのみプリモ、他はセコンドのパートを受け持つ。重量級ヴィルトゥオーゾ(名人)志向の反田と、ピリオド楽器も学びながら繊細でキラキラ輝く独特の音世界を究める務川。1歳違いの2人は全く持ち味を異にするピアニストどうしだからこそ意気投合するのか、2台ピアノや連弾を積極的に手がけてきた。反田が独立して音楽事務所NEXUS(ネクサス)を立ち上げ自ら社長に就任すると、務川は専属アーティストになり、2020年に「Two Pianos」の日本全国ツアーを計画した。反田は自主レーベル「NOVA Record」の代表も務め、このCDは会場即売を前提に録音したものだった。ツアー自体はCOVID-19のために相次ぎ中止、延期に追い込まれた。
8月以降、少しずつ公演が再開されるなか、改めて録音に耳を傾ける。まだ20代の2人が血気盛んに弾くラフマニノフはもちろん期待通りだが、シューベルトの抒情を丁寧に歌いこむ真摯さ、ラヴェルに21世紀の輝きを与える新しい感覚の美も、注目に値する。
(ノヴァ・レコード)
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