• 池田卓夫 Takuo Ikeda

南米音楽の「熱」率直に奏でた原田慶太楼指揮NHK交響楽団、三浦一馬の饗宴


トロピカルな土曜の昼下がり

NHK交響楽団2021年5月の演奏会@東京芸術劇場コンサートホールは原田慶太楼の指揮、三浦一馬のバンドネオン独奏で南米の音楽を特集、私は2日目22日の土曜マチネを聴いた。コンサートマスターは白井圭。ブラジルのグアルニエーリ「弦楽器と打楽器のための協奏曲」(1972=日本初演)、アルゼンチンのピアソラ「バンドネオン協奏曲《アコンカグア》」(1979)、同じくアルゼンチンのヒナステラ「協奏的変奏曲」(1953)を経て、スペインのファリャ「バレエ組曲《三角帽子》第1番」(1919)に至り一瞬「?」となる。だが、ポルトガル語圏のブラジルを別として、アルゼンチンはスペイン語圏の上、ファリャは「晩年はフランコ政権を嫌ってアルゼンチンに亡命し、当地で没した」と小室敬幸氏執筆の楽曲解説にあるように、南米のキーワードはブレなく一貫しているのだ。


エステティクス(美意識)の点で、ブラジルとアルゼンチンの違いは明白だった。バロック音楽の合奏協奏曲、20世紀の先輩バルトークの「管弦楽のための協奏曲」と新旧作曲モデルの〝いいとこ取り〟を目指したようなグアルニエーリ作品、とりわけ第2楽章「郷愁」にはポルトガル語でいうサウダージ(郷愁、憧憬、思慕、切なさ)の情感が色濃く漂う。第3楽章「おどけて」では白井、ティンバニ首席の植松透のソロが冴え、原田もジャズとは一味異なるサンバの熱を帯びたスイング感で惹きつける。首席奏者たちの妙技というか超絶技巧は後半冒頭のヒナステラ、再び「管弦楽のための協奏曲」風書法の変奏曲で最高度に発揮される。チェロ藤森亮一、ハープ早川りさこ、フルート甲斐雅之、クラリネット松本健司、ヴィオラ中村翔太郎、オーボエ青山聖樹、ファゴット水谷上総、トランペット菊本和昭、トロンボーン古賀光、ヴァイオリン白井、ホルン日橋辰朗(読売日本交響楽団首席のゲスト出演)、コントラバス吉田秀が大活躍した。皆、嬉々として取り組むのが今のN響の良さだ。


バンドネオンの三浦はクラシックの交響楽団との共演に最適と思われる透明で明瞭な音色、楷書体で几帳面な演奏態度の両面で、「タンゴとジャズ、クラシックの前衛音を融合させたピアソラ音楽の世界」の理想的な再現者だった。とりわけ最弱音の美しさ、第1楽章のカデンツァで現出させたメタフィジカル(形而上的)な音の光景に30代の円熟境を実感した。第2楽章で三浦と絡む白井のソロも、変わらず見事だ。原田の指揮も熱狂とうねりの一方で三浦との呼吸、音色の変化などで細心のコントロールを保ち、N響の潜在能力を最大限に引き出した。第3楽章コーダ(終結部)の粘りを伴った管弦楽の〝揺らぎ〟は前日の読響定期で下野竜也がマルティヌーの「交響曲第3番」コーダで聴かせた圧巻のサウンドともども、東京のオーケストラがコロナ禍を通じて到達した新たなスタンダードといえるものだった。


原田は舞台中央にとどまり、客席に向かって手をグルグル回して三浦への拍手を煽り(昭和のテレビ番組公開生放送のディレクターを思い出した)、再び現れた三浦に着席してアンコールを弾くよう促し、自分も指揮台に腰かけてNHK大河ドラマ「青天を衝け」のエンディング曲(先日まで三浦のソロで流れていた)に聴き入った。コロナ禍以前の超高齢で教養型クラシック音楽ファン保守本流最後の牙城?だったN響なら終演後、クレームが殺到したであろうステージマナーも今や爆笑とともに受け入れられる。楽員も原田との共演に笑顔を絶やさない。池袋で土曜昼下がり、リッチなオーケストラを肩ひじ張らずに楽しめた好企画!

537回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示