• 池田卓夫 Takuo Ikeda

全て「アメリカ関係」で2プログラム、原田慶太楼の指揮でN響が完全燃焼した

更新日:2020年11月29日


福岡県津屋崎の土人形「ごん太」に似ている?

NHK交響楽団の2020年11月演奏会は28歳の熊倉優が1プログラム、35歳の原田慶太楼が2プログラムを振り分けた。熊倉のレビューはすでに掲載した;

https://www.iketakuhonpo.com/post/%E6%8C%87%E6%8F%AE%E8%80%85%E3%81%AE%E7%86%8A%E5%80%8928%E6%AD%B3%EF%BC%86%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%81%AE%E8%97%A4%E7%94%B022%E6%AD%B3n%E9%9F%BF%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%8C%E3%80%8C%E8%8B%A5%E3%81%95%E3%80%8D%E3%82%92%E7%88%86%E7%99%BA%E3%81%95%E3%81%9B%E3%81%9F%EF%BC%81

今回は原田の2公演をまとめて振り返る。トップ画像右に組み合わせた土人形のフィギュアは福岡県福津市の伝統工芸品「津屋崎人形」の代表的キャラクターで「ごん太」という。https://bulan.co/swings/tsuyazakiningyo/

九州大学でデザインを教える私の妻がこれを世界各地に持ち歩き、景色と一体の写真に収める〝アート〟を続ける関係で「ごん太」が我が家に現れ、先日は2人で工房を訪れた。彼女いわく「原田慶太楼さんに、似てない?」。ご本人にお伝えしたところ「なら、今後は〝ごん太楼〟て呼んで!」とひるまず、感心したのであった。


1)11月20日、東京芸術劇場コンサートホール

コリリャーノ「航海」

バーバー「ヴァイオリン協奏曲」、独奏=神尾真由子

ソリスト・アンコール:シューベルト〜エルンスト「《魔王》による大奇想曲」

ドヴォルザーク「交響曲第9番《新世界より》」


2)11月26日、サントリーホール

バーンスタイン「《オン・ザ・タウン》から《3つのダンス・エピソード》」

G・ウォーカー「弦楽のための叙情詩」

ピアソラ「《タンガーソ》(ブエノスアイレス変奏曲)」

コープランド「バレエ組曲《アパラチアの春》」

マルケス「《ダンソン》第2番」


2つの演奏会のキーワードは「アメリカ」。南北アメリカ両大陸に生まれた作曲家のパノラマに、ニューヨーク勤務時代のボヘミア(チェコ)人ドヴォルザークが新大陸で得た霊感に基づく交響曲を加えた。人種的なバックグラウンドもユダヤ系、アフリカ系、ヨーロッパ系、ウクライナ系それぞれのアメリカ人、アルゼンチン人、メキシコ人、チェコ人…と、多彩。少なくともコリリャーノ、バーバー、コープランドはゲイ、バーンスタインはゲイ寄りバイセクシャルという、別の伏線も指摘できる。旧大陸ヨーロッパに向け新大陸アメリカの活力を示す陽気で賑やかな響きを前面に出す一方、コリリャーノとウォーカーの静かで内省的、タッチーな音世界では美しい翳りを演出する。まさに硬軟両様のアプローチといえる。


バーバーの協奏曲では神尾真由子の天衣無縫でハイテンションのソロが圧巻。とりわけ第3楽章プレスト・イン・モート・ペルペトゥオの快刀乱麻、暴走一歩スレスレのテンポには、さすがの原田も付けるのが懸命だった。アンコールの「魔王」は第1コンサートマスターの篠崎史紀はじめN響の弦楽セクション全員が、唖然の面持ちで眺めていた。「新世界」交響曲では通俗名曲化した作品に染み付いた弾き癖をことごとくを排除、一から楽譜を洗い直した響きの鮮烈さが際立った。聴く人によっては「アメリカンスタイルの〝ケバい〟新世界」と受け止めたかもしれないが、ロシアで指揮を学び、東欧音楽に愛着を寄せる原田の楽曲分析と解釈は、そんな単純なものではない。とりわけ第3楽章中間部のトリオでヴィオラ、チェロが刻むリズムにちゃんとチェコの民族舞曲のアクセントを与える指揮を聴いたのは、今は亡き札幌交響楽団名誉指揮者のチェコ人マエストロ、ラドミル・エリシュカ以来だった。


もう1つのプログラムはアメリカ合衆国のサンクス・ギヴィング・デイに因むもので、日本コロムビアがライヴ録音した。メキシコのマルケス以外の3人は北米の作曲家で、とりわけ「古き良き時代」「黄金時代」の合衆国を想起させる作品を集めたことに、ある種の政治的メタファーを察知した聴き手もいたはずだ。今から40年あまり前のN響定期演奏会で、外山雄三やレナード・スラトキンらが同様のプログラムを指揮しても、オーケストラ演奏家(楽員)は理解も共感もノリも極めて悪く、ドイツ音楽信奉者の巣窟だった客席の反応も冷淡そのものだった。だが、今回は原田が身体運動能力の限りを尽くして作品の生命感を吹き込むと、オーケストラは全身弾きの情熱でこたえ、客席も熱狂した。主席奏者たちのソロ演奏も卓越していて、とりわけクラリネットの松本健司の百面相的な妙技と美音は驚嘆に値する。


両プログラムともヴァイオリンは第1、第2を左右に分けた対向配置で、面白い効果を発揮した。原田はタクトを持たず全身を駆使した指揮ぶりで、N響のベストを引き出していた。

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