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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

何故かホッとしたアルミンク指揮の新日本フィル定期「弦チェレ」「カルミナ」


11日のサントリーホールを聴いた

2022年7月11日、サントリーホールで新日本フィルハーモニー交響楽団第642回定期演奏会を第3代音楽監督(2003ー2013年)、1971年ウィーン生まれのクリスティアン・アルミンクの指揮で聴いた。バルトークはハンガリー、没後40年のオルフはドイツと、ともにアルミンクと同じ中欧文化圏の作曲家で元々、得意とするレパートリーだった。


アルミンクが新日本フィルの音楽監督に就く際、当時の専務理事だった森千二さんから「以前から顔見知り、ドイツ語の話せる記者として、サポーターになってほしい」と頼まれた。ドイッチェ・グラモフォン(DG)の極東代表を務めた父親の関係で生後すぐから数年間、東京で育ったクリスティアンには日本、日本人への偏見が全くなく、お坊ちゃんらしい親しみやすさがあった。音楽ものんびりしていたが、仕事ぶりは丁寧、時間をかけて新日本フィルのアンサンブルを整え、ウィーン風の柔らかな音色を植え付けた。


「あと3か月在任すればユゼフ(ヨーゼフ)・ローゼンシュトックを抜き、日本のオーケストラで常任ポストを得た外国人指揮者の最長在籍記録を更新できる」と思ったが、2つのアクシデントを通じ、去ることになった。1つは2011年の東日本大震災。福島の原発事故を危惧した家族の反対で来日をキャンセル、新日本フィルとともに新国立劇場のピットに入って「ばらの騎士」を演奏する機会を代役指揮者に譲ったことで、楽員との関係が一時的に悪化した。もう1つは、短期間在籍した森さんの後任がアルミンクを全く評価せず、ダニエル・ハーディングとインゴ・メッツマッハーの招聘に舵を切ったこと。新体制発表の記者会見に出た私が「それでもアルミンクは功労者。退任後に何か、名誉職的なタイトルを進呈する計画はないのですか?」と質問した時、このトップは「Good Looking Conductor(イケメン指揮者)なんていうのは、どうかね?」と冷淡に答え、周囲を唖然とさせた。2019年には当時音楽監督を務めていたベルギーのリエージュ・フィルハーモニー管弦楽団との日本ツアーも実現したが、新日本フィルとの組み合わせで聴くのは、実に久しぶりだった。


バルトークの「弦チェレ」が始まると「あつ、クリスティアンと新日本フィルの音だ!」。皮膚感覚で過去の記憶が蘇った。おっとりしていてエッジは甘いが、音楽的に洗練され、内実を伴った響き。楽員たちも伸び伸び、楽しそうに弾いている。前日の7月10日が127歳の誕生日に当たったオルフの代表作、「カルミナ・ブラーナ」も前衛的で激烈な演奏の対極にあり、「クリスティアンと新日本フィルの邂逅」にひたすら身を委ね、安らかな気持ちで聴くことができた。先月のシャルル・デュトワは究極のサウンド職人として楽曲それぞれに理想の音色、奏法を1人1人のレベルまで求めて目覚ましい成果を上げた半面、クリスティアンの演奏に覚えた安穏の世界とは異質の緊張感に支配されていた。管楽器のメンバーも実にリラックスしていて、良いソロを奏でた。バルトークとオルフにおける最高の名演、ではないにもかかわらず、すごく良い音楽を聴いた感触が延々と残り、後味のいい一夜だった。


二期会合唱団は40人と小ぶり、独唱者3人のうち晴と清水は関西ベースの名歌手と、東京での通常の「カルミナ」と微妙に異なる声楽チームの選択も当たり、聴き応えがあった。





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