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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

中島良史健在!恵比寿の子どもは幸せだ


中島(手前右)はブリテン「キャロルの祭典」を50年にわたり指揮してきた

日本とチェコの若い音楽家の交流プロジェクト「ヤング・プラハ」の仕掛け人として東奔西走していたころから、作曲&編曲家で指揮者の中島良史のアイデアとエネルギー、カオスには瞠目してきた。「音楽志望の学生を1人、紹介したくなったのですが、とりあえず会っていただけますか?」とメールしたら、逆に「次の日曜日、こんなコンサートやるので、とりあえず人でいらっしゃい」と、またしても良く分からない催し(失礼!)に引っ張り込まれた。タイトルからして「たこフェス2019冬in EBiS303 第4回クリスマスコンサート」と怪しい。「どうやら子ども向けの無料イベントらしい」くらいの認識で出かけたが、これまた、またしても夢と情熱、優しさにあふれた中島ワールドに魅了される結果で終わった。


2019年12月8日。真珠湾攻撃で太平洋戦争が始まって78年目の記念日の午後、東京・恵比寿のSUBARUビル内のイベントスペース「EBiS303」が、たこフェスの会場だった。主催は地元の商店会(東恵比寿商栄会)で、その会員たちが親身の会場整理で出迎えた。全体のMC(司会進行)も商栄会の会員だが、プロ並みに上手い。会長や地元選出国会議員(これまた気の利いた話で笑わせた)、渋谷区関係の挨拶を経て始まった第1部は、地元アマチュアの演奏だ。國學院大学管弦楽団の「くるみ割り人形」組曲(チャイコフスキー)、「ラデツキー行進曲」(J・シュトラウスⅠ世)と、クリスマスと新年を駆け足で味わう力業?に続き、区立小学校3校の有志が出演した。猿楽小学校ミュージックフレンド伝統クラブは箏曲の合奏で「春の小川」「きらきら星」「ジングルベル」、長谷戸小学校ながやと合唱団は「学校坂道」「ふるさと」、臨川小学校合唱団は「プライド」「クリスマスメドレー」「We are the world」と、それぞれに工夫を凝らす。中でも「ウィ・アー・ザ・ワールド!」とサビを独唱した小柄な男の子のソウルフルな声にはシビれてしまい、驚いた。


後半はMCがサンタクロース姿の田崎麻矢に替わり、指揮と編曲の中島も話に加わる。若手ソリストの岸本萌乃加が毎年コンサートマスターを務める「たこフェス」オリジナルオーケストラ「ESCC管弦楽団」にハープの千田悦子(ヤングプラハ出演経験者)、NHK交響楽団の元首席ティンパニ奏者で今年78歳の打楽器界のレジェンド百瀬和紀、ピアノ独奏とオケ中ピアノに高橋ドレミ、NHK東京児童合唱団ユースシンガーズを交えた豪華なアンサンブルに対し、中島が編曲スコアを書き、指揮したのは何とガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」、ブリテン「キャロルの祭典」、ラヴェル「ボレロ」と20世紀の傑作3曲。高橋のソロが冴えたガーシュイン、映像を交えてじっくり聴かせたブリテン(ハープと合唱)、スネアドラムで百瀬が健在を見せつけたラヴェルと、音楽的にも聴きどころ満点だった。アンコールはバヴィロフ作曲の「カッチーニのアヴェ・マリア」と、会場も加わってのグルーバー「きよしこの夜」。徹頭徹尾、中島の音楽性と美意識に貫かれた3時間を体験した恵比寿の幸せな子どもたちは絶対に今日、音楽がもっと好きになって帰宅したはずだ。


いつまでも若々しく突飛、音楽の塊のような中島も来年で喜寿(77歳)を迎えるという。「生前葬ならぬ生前奏?」と自ら語る記念演奏会は2020年11月15日、すみだトリフォニー大ホールでのブラームス「ドイツ・レクイエム」。YN(もちろん、ご本人のイニシャル)オーケストラのコンサートマスターは、NHK交響楽団の伊藤亮太郎が務める。合唱団員は現在募集中。中島の熱い指導に応えて歌いたい方は、こちらのメールまで↓


気鋭の作曲家だった中島が指揮を始めた理由は「自作をちゃんと振ってくれる指揮者がいないから」。28歳で渡邉曉雄に弟子入りを志願すると「やめておいた方がいいですよ」と言われたそうだが、親身に指導、音楽監督を務めていた東京都交響楽団(都響)で指揮デビュー(オルフの「カルミナ・ブラーナ」)する機会まで授けてくれた。奇しくも渡邉生誕100年に当たる年の大詰めに中島の健在を目撃できたのは、自分にも喜ばしい出来事だった。

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