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パーヴォ&N響の「トゥランガリラ」、「古典」と化した端正な佇まいに感銘

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

本番スタンバイのオンドマルトノ様!

NHK交響楽団Bプログラム第1917回定期演奏会(2019年6月19日、サントリーホール)で、メシアンの「トゥランガリラ交響曲」を久しぶりに聴いた。座った席が1階の9列目と、いつもよりかなり前方だったので音圧過剰を心配したが、首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィの端正な棒さばき、引き締まった造形により、すでに「古典」と化した1940年代の傑作を細部まで、じっくりと堪能できたのは幸い。輝かしさと静けさの美しい対比が際立ち、終曲の最後の盛り上がり、音の大伽藍は圧倒的だった。深く大きな愛の世界に浸りきった。


ロジェ・ムラロのピアノで「トゥランガリラ」を聴くのは、いったい何度目だろう。1959年リヨン生まれの名ピアニストはパリ音楽院のイヴォンヌ・ロリオのクラスに学び、その夫であるメシアンからも才能を激賞されたスペシャリスト。今までは2階席とか、遠くから聴いていたので気づかなかったが、ムラロはかなり高い技巧のハードルを易々とクリアしているばかりか、譜面を慈しむようにめくり、弾くのが「楽しくて仕方がない」風情の笑顔で楽曲を完全に手中に収めている。オンドマルトノは英国人女性のシンシア・ミラー。2016年にザルツブルク音楽祭で世界初演、私は2017年のニューヨーク・メトロポリタン歌劇場での米国初演を観たアデス作曲のオペラ、ルイス・ブニュエル監督の映画に基づく「皆殺しの天使」の管弦楽にはオンドマルトノが使われ、アデスはミラーを想定して書いたという。メシアンでもオペラのピットに入ったときと同じか、それ以上に表出力の強い音楽を奏でた。


楽しそう、という点ではヤルヴィもN響の楽員も同様だった。これほど笑顔でソリストたちを振り返り、嬉々として指揮するヤルヴィの姿は珍しい。若返り著しい楽員たちにテクニック面の課題はもはや存在しないので余分な力が抜け、それぞれのパートやソロを美しく響かせる配慮には並々ならないものがあった。ゲストコンサートマスターはセルジュ・チェリビダッケ最晩年にミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスターを務めたロレンツ・ナストゥリカ・ヘルシュコヴィチが務め、もじゃもじゃの銀髪と大ぶりのアクションで合奏に弾みをつけていく。かなり長く続いた拍手の後に解散する際、ヘルシュコヴィチが次席に握手をすると、他の楽員たちも同僚と握手をしたり、肩をたたき合ったりで、演奏の喜びを表した。「N響も随分、明るくなったな」と思った。変わらないのは、ドイツ音楽偏重の一部定期会員かもしれない。音楽監督時代のシャルル・デュトワが「トゥランガリラ」を振ったときにもいた、これ見よがしの途中退席を今夜もまた数人、目撃したのは残念。

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