top of page
執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

バッティストーニ指揮東京フィルのピアソラとプロコフィエフ、イニシャルはP


2021年5月13日、東京フィルハーモニー交響楽団第952回サントリーホール定期演奏会シリーズを首席指揮者アンドレア・バッティストーニの指揮で聴いた。アンドレアは今年1月の定期に続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に伴う来日後14日間の待機を経て5月4日の軽井沢大賀ホール演奏会、その後3回の定期に臨んだ。サントリー定期の詳しいリポートは、1月に行ったままコロナ禍の先行き不透明で〝お蔵入り〟だったアンドレアへの単独インタビューと併せ、「音楽の友」誌7月号に載る予定なので、レビューは軽めに。


曲目は生誕100周年に当たるピアソラの「シンフォニア・ブエノスアイレス」と、アンドレアが「僕の街ヴェローナの歴史上最も有名な市民」と紹介する「ロメオとジュリエット」の物語をプロコフィエフがバレエ音楽にした2つの組曲から9曲を選んだ約50分の抜粋。2人の作曲家はアルゼンチン、ロシアと国籍を異にするが、イニシャルの「P」を共有する。ピアソラが結果的にパリ留学の奨学金をコンクールで得た出世作「シンフォニア・ブエノスアイレス」は1951年作曲、今回が日本初演に当たる。オリジナルのスコアはバンドネオン2だが、1もしくは「なし」の版もあるなか、東京フィルでは2を生かし、小松亮太と北村聡を迎えた。クラシック系の作曲を目指していた時期の作品だけにバンドネオンの存在感、タンゴへの接近は控えめながら、日本を代表する名手2人は〝オケ中〟にいたにもかかわらず、強い存在感を発揮した。またコンサートマスターの依田真宣、オーボエの加瀬孝宏、クラリネットのアレッサンドロ・べヴェラリ、ホルンの高橋臣宣ら東京フィル首席奏者たちのソロもアンドレアの積極的リードに応え、冴えに冴えていた。とりわけ第2楽章レント・コン・アニマの濃厚な情感が心に残る。2人のバンドネオン奏者によるアンコール、カルロス・ガルデル(ピアソラ編)「想いの届く日」はひたすら美しく、指揮者も聴き入っていた。


プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」では1月定期でも感じたアンドレアの進境(とりわけ無駄な動きが減った)、コロナ禍を逆手に取ったかのように深まった東京フィル楽員との結び付きが一体になり、非常に洗練された音楽が実った。弱音のニュアンスが増し、オーケストラ全体の音色が艶やかに磨かれ、劇場指揮者のドラマトゥルギーが緩急自在に羽ばたく。かつてのジャン・フルネ指揮東京都交響楽団、少し前のシルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団などで聴けた独特のアロマ(芳香)が漂うオーケストラのサウンド・アイデンティティのようなものが、まだ若い(1987年生まれ)バッティストーニと世代交代が急激に進む東京フィルの組み合わせにも現れ始めたのは、極めて興味深い現象である。

閲覧数:374回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page