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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

ノーマン・レオンスカヤ&ソヒエフ・パーヴォ&N響、そしてLEO

クラシックディスク・今月の3点(2023年4月)


かなり濃厚な顔ぶれ

「ジェシー・ノーマン 未発表録音集」

[CD1](スタジオ録音)

1.ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》 WWV 90(抜粋)

イゾルデ:ジェシー・ノーマン(ソプラノ)

ブランゲーネ:ハンナ・シュヴァルツ(メッゾ・ソプラノ)

トリスタン:トーマス・モーザー(テノール)

若い水夫:イアン・ボストリッジ(テノール)

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

指揮:クルト・マズア

録音:1998年4月、5月 ライプツィヒ、ゲヴァントハウス

[CD2](ライヴ録音)

2. R.シュトラウス:《4つの最後の歌》 TrV 296

3. ワーグナー:《ヴェーゼンドンク歌曲集》

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

指揮:ジェームス・レヴァイン

録音:1989年5月(2)、1992年11月(3) ベルリン、フィルハーモニー

[CD3](ライヴ録音)

4. ハイドン:《ベレニーチェのシェーナ》 Hob. XXIVa: 10

5. ベルリオーズ:叙情的情景《クレオパトラの死》 H. 36

6. ブリテン:カンタータ《フェードラ》 作品93

ボストン交響楽団

指揮:小澤征爾

録音:1994年2月 ボストン、シンフォニーホール


ノーマン(1945ー2019)はソプラノからアルトまでの音域をカバー、オペラからコンサート・アリア、歌曲、ジャズ、ミュージカル、スピリチュアルズ…と広範なフィールドで常に偉大なディーヴァ(歌の女神)として君臨、どこか孤独の影も漂わせる独特の存在だった。自身の芸術だけでなく、他者にも厳しい態度で接した。インタヴューでも完璧主義を貫き、「気難しい」とされた。1度だけ単独取材したことがあり、私とは何も起きなかったが、次の音楽担当ではない英字紙記者に「心配だから」と同席を求められ、ノーマンの知り及ばない日本の歌手が「あなたを聴き、管楽器から声楽に転向した」との話に至ると、「そんなこと、知りません。本人に取材したらいいでしょう」と、みるみる不機嫌になった。


気難しさはレコーディングでも発揮され、長く契約を結んでいた「フィリップス」レーベル(現在は「デッカ」に糾合)には「お蔵入り」の音源が少なからず存在する。今回、日の目を見た3枚も指揮者の解釈に不満があったり、ミキシングの音質が気に入らなかったりで、発売の機会を逸したものだ。添付の解説書にはユニバーサルミュージック幹部、「フィリップス」時代のA&R(アーティスト&レパートリー)担当者の詳細な証言、〝蔵出し〟までの経緯が事細かに綴られている。とりわけ《トリスタン》は全曲盤を目指しながら途中で指揮のマズアと決裂、トルソーのように投げ出された音源だが、素晴らしいイゾルデに驚く。


3人の指揮者のうちマズア、レヴァインは他界、小澤も病気で一線を退いている。皆が輝いていた時代の貴重な記録でもあり、「よくぞ出してくださった」と感謝するしかない。

(デッカ=ユニバーサルミュージック)


ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番/第3番」

エリザーベト・レオンスカヤ(ピアノ)、トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団

録音:2017年9月5−8、19、20日、2018年1月4−6日、仏トゥールーズのLa Halle aux grainsでのライヴ


レオンスカヤ(1945ー)は旧ソ連グルジアの出身だが、1978年以降は一貫してウィーンを本拠とし、ドイツ=オーストリアの音楽に高いアフィニティー(親和度)を発揮してきた。同じく旧ソ連時代の北オセチア出身のソヒエフ(1977ー)との相性も抜群、NHK交響楽団でもベートーヴェンの協奏曲を共演している。ソヒエフはトゥールーズ、モスクワのボリショイ劇場の他、ベルリン・ドイツ交響楽団のシェフも歴任しており、今年(2023年)1月のN響定期でもベートーヴェンの「交響曲第4番」の傑出した解釈を披露した。


少し前のトゥールーズの演奏記録である2曲の協奏曲においても2人の解釈に齟齬はなく、深い共感と作品理解、奇を衒わない実直なアプローチで磨き抜かれたベートーヴェンがただただ、自然現象のように迫ってくる。

(ワーナーミュージック)


バルトーク「組曲《中国の不思議な役人》/《管弦楽のための協奏曲》」

パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団

録音:2021年9月10&11日、東京芸術劇場コンサートホールでのライヴ


2017年収録の「弦楽器・打楽器・チェレスタのための音楽」などに続くパーヴォ(1962ー)とN響のバルトーク第2作。録音ディレクターとバランス・エンジニアはオクタヴィア・レコードの江崎友淑社長が務めている。《マンダリン》が現代一線の指揮者とオーケストラのデフォルトを「堅実に示した」くらいの水準にとどまっているのに対し、《オケコン》ではN響の名手たちの傑出したソロと柔軟な弦、還暦と前後して内面の味わいを増すパーヴォの円熟がすべて良い方向に噛み合い、シンシナティ交響楽団との旧盤(米テラーク)を上回る成果を収めている。

(ソニーミュージック)


※以下は「番外」のオススメ盤

LEO(今野玲央)「GRID//OFF」

1)今野玲央:DEEP BLUE

サウンド・プロデュース:坂東祐大/共演:伊藤ハルトシ(チェロ) ロー磨秀(ピアノ)

Leo Konno: Deep Blue

sound prodeuced. by Yuta Bandoh

koto: LEO, violoncello: Harutoshi Ito, piano: Matthew Law

2)網守将平:Perpetuum Mobile Phunk

Shohei Amimori: Perpetuum Mobile Phunk

3)スティーヴ・ライヒ:Nagoya Marimbas 共演:木村麻耶(25絃箏)

Steve Reich: Nagoya Marimbas performed

25-string koto: LEO and Maya Kimura

4)今野玲央:空へ

Leo Konno: Sorae

5)デリック・メイ: Strings of Life サウンド・プロデュース:久保暖(1e1)

Derrick May: Strings of Life

sound produced. by 1e1

6)坂本龍一:Andata 編曲・シンセサイザー:網守将平

Ryuichi Sakamoto: Andata arr. by Shohei Amimori

koto and 17-string koto: LEO, synthesizer: Shohei Amimori

7)ティグラン・ハマシアン: Vardavar

編曲:篠田大介/共演:伊藤ハルトシ(チェロ) ロー磨秀(ピアノ)

Tigran Hamasyan: Vardavar arr. by Daisuke Shinoda

koto: LEO, violoncello: Harutoshi Ito, piano: Matthew Law

8)吉松隆:すばるの七ツ - 月

Takashi Yoshimatsu: Subaru - MOON

9)吉松隆:すばるの七ツ - 火

Takashi Yoshimatsu: Subaru - FIRE

10)吉松隆:すばるの七ツ - 水

Takashi Yoshimatsu: Subaru - WATER

11)吉松隆:すばるの七ツ - 木

Takashi Yoshimatsu: Subaru - WOOD

12)吉松隆:すばるの七ツ - 金

Takashi Yoshimatsu: Subaru - METAL

13)吉松隆:すばるの七ツ - 土

Takashi Yoshimatsu: Subaru - EARTH

14)吉松隆:すばるの七ツ - 日

Takashi Yoshimatsu: Subaru The SUN

15)坂東祐大:もっと上手にステップが踏めますように 共演:山澤慧(チェロ)

Yuta Bandoh: Aspiring to Skillfull SteppingII, for Koto and Violoncello

koto: LEO, violoncello: Kei Yamazawa

16)今野玲央:松風

Leo Konno: Matsu Kaze

録音:2022年10月〜2023年2月 Recorded at prime sound studio form, Studio Sunshine and Sound Valley


箏演奏家としてはLEO、作曲家としては本名の近野玲央(1998ー)。最新盤のタイトルにあるGRIDは英語で「枠」を意味、それを「OFF」にする願いをこめた。レーベル(日本コロムビア)の公式サイトには「今作はあえて“箏らしさ”という枠を取り払い、現代音楽からジャズまで、そしてグルーヴやエレクトロなどの要素を取り入れ、現在進行形の音楽を届ける。LEOが敬愛する作曲家・坂本龍一や吉松隆、スティーヴ・ライヒの作品や、アルメニア出身の鬼才ピアニスト ティグラン・ハマシアンのグルーヴ溢れる音楽、さらには坂東祐大、網守将平ら新世代のクリエーターとのコラボや、自身作曲によるオリジナル作品も収録。あらゆる枠を超え、現代を生きる一人の音楽家として、箏、そして自身の可能性を追求する一枚」と記されている。何も考えずボーッと聴くうち、全身が洗われるような感触に。

(日本コロムビア)






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