いきなり15年前にプロデュースした演奏会の記録を引っ張り出してみる;
音の散歩道Vol.4「秋のソナタ〜パリが見えた!〜」
2004年10月2日、三鷹市芸術文化センター・風のホール
(出演)
加藤 知子 / ヴァイオリン
浅岡 洋平 / チェロ
山田 武彦 / ピアノ
羽山 弘子 / ソプラノ
(曲目)
【パリで花開くジャポニズム】
サティ / ジュ・トゥ・ヴ(あなたが欲しい)
ドビュッシー / チェロ・ソナタ
メシアン / 主題と変奏
ラヴェル / ツィガーヌ
【日本に匂い立つフランスの香り】
橋本国彦 / お菓子と娘、母の歌、朝はどこから
團伊玖磨 / 花の街
矢代秋雄 / ピアノ三重奏曲
(企画監修)
池田 卓夫
(主催)
財団法人 三鷹市芸術文化振興財団
この演奏会のさらに数年前、紀尾井ホールが林光監修で続けていた日本の近現代作品を回顧するシリーズ演奏会のライヴ盤で楽曲の存在を知った矢代秋雄(1929ー1976)の「ピアノ三重奏曲」を自分の企画でも手がけたくて、発想したプログラミングだった。まだパリに留学する前、東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽学部)作曲科在学中の1948年(昭和23年)に書いた最初期の作品ながら4楽章構成、演奏時間30分あまりの大作で恩師の橋本國彦に献呈されている。三鷹の演奏会を聴きにいらした矢代と同世代の知人は「当時の仏文科の学生のように、まだ見もしないパリに思いを馳せ、想像を膨らませて行った時代の雰囲気を思い出した」と、感想を述べてくださった。フランスへの憧れに満ちた美しいピアノ三重奏曲を矢代生誕90周年の今年、再び実演で聴けたのは幸せだった。演奏会の存在を知らせてくださった矢代夫人、若葉さんに感謝する。
演奏はパリ在住の瀬川祥子(ヴァイオリン)、ベルリン在住の水谷川優子(チェロ)、ニューヨーク在住の谷川かつら(ピアノ)。2013年の東京でベートーヴェンの「三重協奏曲」のソリストとして出会ったのをきっかけに「トリオ ソ・ラ(TRIO SoLLA)」を結成、年1度のペースで演奏会「三都物語」を開き重ね、今年で6年目になるという。2019年11月25日、浜離宮朝日ホールは今年の日本ツアー最終公演(6か所目)に当たり、他に米国の現存女性作曲家ジェニファー・ヒグドン、シューベルト(第1番)のピアノ・トリオが演奏され、アンコールはスークの「エレジー」だった。ジェンダー(性差)が叫ばれて久しく、演奏の傾向を過度に性別で判断するのは慎むべきだが、それでもなお、今夜は「女弾き」の美点をはっきり聴き取ることができた。フレーズの構築が優美で音色が移ろい、しなるのである。とりわけシューベルトとスークで強みとなり、矢代では旋律に耽溺するあまりにテンポ感を失い、演奏時間が通常より長くなる結果を生んだ。それでも第3楽章アダージョ・ファンタスティコが崩れる寸前まで豊麗に、たっぷり歌われるのを聴くと「これはこれで、ありかな?」と思えるだけの完成度に達しており、3人の奏者の熟練を感じた。
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