• 池田卓夫 Takuo Ikeda

トッパンホールの葵トリオ、夢を未来に


平成から令和にかけての1週間に、葵トリオの記事を3本アップしたのは偶然だろうか? 今までの日本のピアノ三重奏チームと次元を異にする、強いエネルギーの放射を浴びた今は偶然よりも必然を感じている。2019年5月1日、令和初日の午後2時からの演奏会は、トッパンホールが2002年10月から続けてきた「ランチタイム コンサート」の第100回記念として、早くに企画された。葵トリオがARD(全ドイツ公共放送網)コンクールに優勝する前、新年号の話も具体化する以前で「10連休まん中のマチネに来る人なんて、いるのだろうか?」と疑問視する声も出たという。蓋を開ければ、ソールドアウトの盛況だった。


前半にベートーヴェンの第5番《幽霊》、マルティヌーの第3番、後半にメンデルスゾーンの第2番とピアノ三重奏曲を3曲並べ、アンコールもハイドンの第27番のフィナーレ。当ホームページでもデビュー盤のレビューをアップしたばかりだが、とにかく、フレージングやリズム処理に「日本節」がなく、発足時点でグローバルスタンダードを備えている点で、新しい世代の台頭を強く印象づける。情熱的な小川響子のヴァイオリン、しなやかに歌う伊東裕のチェロ、ソリスト級のスケールで構造をがっちり支える秋元孝介のピアノと、それぞれ微妙に異なる持ち味をプラス方向に重ね合わせて音自体、さらに表現が前へ前へと飛び出していく。ひと昔前の「草食系」室内楽の痕跡をとどめず、どう猛な表出力に唖然とする。


ベートーヴェンの「幽霊」は「大公」と比べても難所の多い曲で、さすがに攻めあぐねる瞬間もみられた。1952年初演のマルティヌーの多彩な表情、強い一体感でロマン派にふさわしい激しい燃焼をみせたメンデルスゾーンの説得力には、葵トリオのポテンシャルがフルに発揮された。高水準の土台を揺るぎないものとして今後、どこまで室内楽の深奥に迫り、世界のコンサートホールへと進出していくのか、大きな期待を抱かせる演奏会だった。

© 2018 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

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