• 池田卓夫 Takuo Ikeda

トッパンホールのニューイヤー、シューベルトの光と影に魅せられた若者たち


トッパンホールの「ニューイヤーコンサート2022」(1月25日)は外国からのゲスト招聘を断念、日本の若手奏者を中心とした「神と悪魔に魅入られた男 フランツ・シューベルト」の特集が実現した。前半が川口成彦によるスタインウェイ、フォルテピアノのヨハン・ゲオルク・グレーバー(「即興曲」作品90 D899の鳥肌が立つほど陶酔的な演奏!)の弾き分けと周防亮介(ヴァイオリン)によるエルンストによる「魔王」の超絶技巧編曲を置き、後半は周防と前半冒頭に川口と「ソナタ第1番」を共演した北田千尋(ヴァイオリン)、伊東裕(チェロ)、笹沼樹(同)、最年長の柳瀬省太(ヴィオラ)の「弦楽五重奏曲」。北田と笹沼はカルテット・アマービレ、伊東は葵トリオのメンバーでもあり、デビュー当初から室内楽にも熱心に取り組み、国際コンクールで成果を上げてきた。


一期一会の顔ぶれだから、アンサンブルがずれたり、音程が甘くなったりする場面がないわけではなかった。それは全く些細な「揚げ足取り」でしかなく、何より、全員が「神と悪魔」のタイトルが象徴するシューベルト独自の摩訶不思議な音楽の迷宮&宇宙ーー喜びと悲しみ、フレンドリーと孤独、洗練とエスニック、調和と破壊といった相反する要素が交互に現れるーーと真正面から向き合い、ハイテンションで精細に富むアンサンブルを繰り広げたのが素晴らしかった。歌曲(リート)はエルンストの編曲物以外なかったにもかかわらず、器楽曲や室内楽曲をあたかもリートのように書き綴った孤高の作曲家の世界を心底堪能した。とりわけ演奏時間1時間に及ぶ「弦楽五重奏曲」は見事な再現、「日本の2チェロズ」ともいえる笹沼、伊東の絶妙な音楽のキャッチボール、呼吸の一致が強い印象を残した。

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