2017年12月以来、日本の指揮台から消えていたシャルル・デュトワが2019年5月23日.フェスティバルホールの大阪フィルハーモニー交響楽団第528回定期演奏会で復帰。勝負レパートリーのフランス音楽で輝かしい響きを放ち、健在を強く印象づけた。ちなみに大阪フィルとは初共演、関西のオーケストラを指揮したこと自体、今までなかったという。
序曲「ローマの謝肉祭」「幻想交響曲」とベルリオーズ2曲の間にラヴェルのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲を合唱付きで置いた。合唱は大阪フィルハーモニー合唱団(福島章恭指揮)。序曲の開始から華やかな香りに満ち、エッジが立ち、湿り気のない音が鮮やかに広がった。まさに祝杯のシャンパンの泡立ち。大阪フィルにしては異例の色彩感が漂い、マエストロのカムバックを献身的に支える。1936年生まれと小澤征爾の1歳下だが、全身をバネのように使い、オーケストラを軽快にドライブしながら、即興的な表情付けを自在に施す指揮ぶりは、少しも衰えていない。日本を留守にしている間にサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団の首席客演指揮者に就き、ロシアで大活躍してきたのも納得できる。
リハーサルではいつもと同じく、作品の部分部分で自身が理想とする音のイメージに到達するまで、ミリメートル単位の調整を粘り強く続け、時間ぎりぎりまで粘った。「スイスの時計職人」とは、ラヴェルに付けられたニックネームだが、哲学や理屈を一切語らず、サウンドだけでオーケストラを見事に磨き上げる正真正銘のスイス人デュトワの仕事こそ、真の職人芸の名に値する。半面、合唱団の準備ぶりには満足し、殆ど注文を付けなかったという。
ところが「幻想交響曲」では「上手の手から水」というか、感極まったデュトワとテンションの針が振り切れた大阪フィルの力演があらぬ方向に展開、音の美観を欠いたり、妙なデフォルメが現れたりして、びっくりした。完成度は前半2曲の方が高かったが、1年半ぶりの日本復帰で久しぶりに聴く「デュトワの幻想」は、特別な気分に支配されていた。
大阪フィルは創立者の朝比奈隆以来のルールで、定期演奏会には管楽器の首席2人が揃って出演を義務付けられ、前半と後半でトップが替わる。世代交代が進むなか、セクションごとの首席の力量に明らかな段差も目立つ。もはや「研鑽の成果を全員で示す」という定期演奏会の長年の大義名分を、見直していい時期に来ているのではないか?
Comments