クラシックディスク・今月の3点(2020年1月)
ブルックナー「交響曲全集(第0−9番)1台ピアノ4手連弾版」
デュオ・ディノ・セクイ&ゲルハルト・ホッファー(ピアノ)
新年はドイツ出張、フランクフルトでまさかの入院などイレギュラーな日程が続きディスクを試聴する時間にも限りがあったなか、何故か繰り返し聴いた3点をご紹介しようと思う。
自分がピアノ・デュオ(伊藤憲孝&髙橋望による「ザ・ロンターノ」)のプロデュースを細々と手がけて常に新しいレパートリーを探している上、ブルックナーの交響曲のほぼ全ての4手連弾編曲が10枚3,000円台の廉価ボックスで手に入ると知って即、注文した。編曲者にもフランツとヨーゼフのシャルク兄弟、レーヴェ、マーラーら興味深い顔ぶれが並ぶ。セクイは1984年ヴェネチア生まれ、ホッファーは1969年ヴェルス生まれ。2人の息の合った演奏は超絶技巧とまではいかないものの、リンツ大聖堂で2008ー2019年の歳月を費やして地道にライヴ録音を重ねてきただけの誠意、思い、説得力には並々ならないものがある。
特に「第0番」「第1番」「第2番」「第6番」といった地味めの作品を興味深く聴けた。「第5番」の〝フーガの学校〟みたいな趣も、なかなか面白い。値段も値段なので、ブルックナーの交響曲に傾倒する方々が1度は聴き、座右に収めてもいい好企画といえる。
(東武ランドシステム)
「ベーラ・バルトークとヴィルトゥオージティ」
(「狂詩曲(ラプソディ)」「3つのチーク地方の民謡」「3つのブルレスケ」「2つのルーマニア舞曲」「3つのエチュード」「2つのエレジー」)
大瀧拓哉(ピアノ)
フランス・ロワール地方のル・ドメンヌ・ドゥ・ラ・フォンテーヌ城での録音は2017年7月11ー13日、輸入盤仕様の日本国内リリースも2018年だが、今まで試聴の機会がなかった。旧知のピアニスト、福間洸太朗から「なかなか優秀な後輩と出会ったので是非、ご紹介したい」と言われ、大瀧本人からディスクを入手した。1987年に新潟県長岡市で生まれ、ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州立シュトゥットガルト音楽演劇大学、フランクフルトのインターナショナル・アンサンブル・モデルン・アカデミー、パリ国立高等音楽院などで学び2017年のオルレアン国際ピアノ・コンクールで優勝、ディスクはその副賞で録音した。
作品1の番号を持つ「ラプソディ」はリスト、ハンガリー民族音楽の影響が非常に色濃く、高校生時代にフンガロトンのLP盤(ガボール・ガボシュの独奏、ジェルジ・レへルの指揮だった)で初めて聴いたときは、バルトークの作品に思えなかった。大瀧はピアノ・ソロで色彩豊かに再現し、一気に聴き手を「マニアックなディスク」(本人のコメント)の世界へ引き込む。それぞれの楽曲を深く分析するとともに、可能な限りの愛情をこめて演奏しているのが手に取るようにわかり、聴く側にも初期バルトークの世界への愛着が芽生えていく。
昨年帰国、日本での活動を本格化したところ。このキラキラ輝く感性を長く大切にして、意欲的なプログラミングに挑み続けてほしいと、切に願う。
(仏SOLSTICE=日本の輸入発売元はレグルス)
ベートーヴェン「ピアノ協奏曲全集(第1ー5番)」
ロナルド・ブラウフティハム(フォルテピアノ)
ミヒャエル・アレクサンダー・ヴィレンス指揮ケルン・アカデミー
作曲家の生誕250周年にちなみベートーヴェンの新譜発売が相次ぐなか、「眼から鱗」級の驚きを与える録音は意外に少ないと思っていたのだが、これは超新鮮なサウンドであった。ピリオド楽器の不安定さは微塵もなく、どこまでも雅な音に安心して身を委ねられる。モダン楽器と比較しての音の減衰の早さを逆手にとり、俊敏な打鍵、軽やかな音の運びで青年〜壮年期の作曲家が十分に保持していた「若さ」を21世紀に蘇らせた。
2017ー2018年にケルンのドイッチュランド・フンクの室内楽ホールで収録。DSD録音をSACD層で再生すると、楽器ごとの音色の綾、線の重なり合いの微細なニュアンスが楽しめる。合計157分13秒を2枚のCD/SACDハイブリッド盤に収めている。
(スウェーデンBIS=日本の輸入発売元はキングインターナショナル)
Comments