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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

コンクールから半年。それぞれの「今」鮮やかに聴かせた若鮎たち


「終わった、飲むぞ〜」の感じ(ピンボケ御免)

昨年10月に開催された第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉は第1〜3位の入賞者を日本人が占め、史上初の女性優勝者を出した。半年あまり後の2019年5月22日にコンクール本選と同じ会場、東京オペラシティコンサートホールで主催者の民音が行った「入賞デビューコンサート」では東京都交響楽団(都響)を相手に3人それぞれ、その後の着実な歩みを印象づける好演を披露した。最後にそろって舞台中央にダッシュ、手をつないで客席に答礼する演出は主催者ではなく、彼ら3人の提案という。非常に雰囲気のいい演奏会だったのでトップ画像はメタメタなアングルながら、終演後に仲良く現れた瞬間の3人をアップ。詳しい批評は後日、クラシカ・ジャパンのサイトに寄稿するので、ワンポイントの印象を列挙しておこう。演奏は3→2→1位の順。都響の献身的な姿勢が、演奏に輝きを与えていた。


熊倉優:チャイコフスキー「幻想的序曲《ロメオとジュリエット》」

作曲も専門的に学んだだけに、楽曲の構造を丁寧に解き明かし、じっくり掘り下げる姿勢が基本。それが時として、テンポの失速やアンサンブルの乱れにつながるが、まだ現場経験が足りず、アンサンブルを立て直すバトンテクニックも十分ではない。3人中の最年少だし、本来ロマンティックでたっぷりとした音楽性の持ち主でエレガントな雰囲気にも事欠かないので、さらなる実践を積んで、次の飛躍を期してほしい。


横山奏:コダーイ「ハンガリー民謡《孔雀は飛んだ》による変奏曲」

「自分自身の音」のサウンドイメージが明確。オーケストラの鳴らし方を心得ており、クライマックスに向かっての演奏設計にも、抜かりがない。会場にいた某オケの企画担当者が「即戦力」と評していたが、一歩間違えると「便利な職人指揮者」として使い潰される危険がある。昨年の本選(エルガーの「《エニグマ》変奏曲」)も今回もバトンテクニックが冴える変奏曲で臨んだが、そろそろ、がっつりした交響曲の演奏で真価に触れてみたい。


沖澤のどか:メンデルスゾーン「交響曲第3番イ短調《スコットランド》」

過去半年で最も伸びたのは彼女だろう。「マエストラ(マエストロの女性形)誕生!」とも呼ぶべき、鮮やかな演奏だった。ドイツ留学後、日本で学んでいた時期の堅固な振り方から、カラヤンを思わせるオペラのカペルマイスター(楽長)的な大きな指揮ぶりに変わったというが、コンクール時点では、それがいささかの性急さを残し、ブレスのない音楽に傾斜するきらいがあった。今回はアーティキュレーションが明確になり「溜め」も十分な指揮。管と弦を丁寧にブレンド、楽曲に潜む「バグパイプのような響き」も着実に再現するなど、随所に発見のある「スコットランド」だった。


この3人なら今後、何度でも聴いてみようと思う。素晴らしい演奏会を、ありがとう!



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