フランス系カナダ人チェリストのジャン=ギアン・ケラスと、フランス人ピアニストのアレクサンドル・タローがブラームス「チェロとピアノのための作品集」(ワーナーミュージック)のリリースを記念、同じ曲目のデュオ演奏会を2019年11月27日、東京・銀座の王子ホールで開いた。前半はドビュッシー(1862ー1918)の「チェロ・ソナタ」とブラームス(1833−1897)の「同第2番」、後半はブラームスの「同第1番」と2人がチェロ&ピアノ用に編曲した「ハンガリー舞曲集」の第1、4、11、2、14、5番。
ドビュッシーは1915年に作曲した遺作ソナタ3曲の1つで、18世紀フランス音楽へのオマージュと思われる楽想を指摘できる。ブラームスの第2番(1886)との時間差は29年しかなく、ブラームスが中世・ルネサンス音楽から彼の同時代の音楽までを詳しく研究して解題、自己の作曲の中に再構築する手法を得意とした実態に重ね合わせると、2つの作品の根底には共通項がある。ケラスとタローはブラームスをドビュッシーと時間を共有した「前衛作曲家」の側へ力技で引き寄せ、恐ろしく激烈な第2ソナタ像を打ち出した。ドビュッシーより過激だった。
しんねりむっつり、爺むささではブラームスの作品中屈指の「うじうじ感」に満ちた第1ソナタの方は滑り出し、はるかに大人しく聴こえた。だが次第に熱を帯びてくると、タローのテンションと強烈な打鍵に巻き込まれ、ケラスも朗々とチェロを歌わせる。そのまま舞曲集の熱狂へとなだれ込み、客席の興奮も最高潮に。それぞれが日本語のメモを読み上げたアンコールは、3曲に及んだ(写真参照)。フランソワーズ・サガンが1959年に発表した小説「ブラームスはお好き(Aimez-vous Brahms?)」は、2年後に「さよならをもう1度」の題で映画化されたほどの人気を博した。そう、フランス人はブラームスがとても、好きなのである。それも、彼らならではの流儀で。なぜ冒頭にドビュッシーを置いたのか、よくわかる気がした。
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