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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

クールな佇まいの内側から湧き出す歌〜吉見友貴ピアノ・リサイタル@桐朋学園


最大客席数234、残響1.7秒。隈研吾の設計で、木をふんだんに使っている。

ニューイングランド音楽院在学中の21歳のピアニスト、吉見友貴のリサイタルを2022年1月9日、桐朋学園宗次ホールで聴いた。「オープニング・コンサート・シリーズ 伝統と革新〜音と共に 木と共に〜」の一環。前半にベートーヴェン「創作主題による6つの変奏曲」、ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲」第1集、ショパン「舟歌」、後半にモーツァルト「ピアノ・ソナタK.311」、シューマン「交響的練習曲」。アンコールはベートーヴェンに戻って「バガテル作品126」の第5曲。小ぢんまりして雰囲気、音響のいい会場で、ほぼ眼前に聴くピアノの迫力は素晴らしい。大きな変貌を遂げ続ける俊英の「今」が、克明に伝わってきた。


最初の2つの変奏曲では音の美しさに感心した半面、早いテンポの連打の凄まじさがゲーム感覚のように聴こえ、旧世代の私は戸惑った。だが、この感性が意外な面白さを発揮して、楽曲に新たな輝きを与えるポテンシャルは続くショパンで、はっきりと示された。今までにない音像の「舟歌」で、唖然としながら引き込まれ、あっという間に聴き終えてしまった。


後半は、より好調だった。モーツァルトの両端楽章はキリッと引き締まったテンポ、切れ味いいリズムでクールに進め、中間楽章でじっくり優しく、繊細に歌を紡ぐコントラストの妙! シューマンでは遺作の練習曲の挿入箇所を吉見独自のアイデアで決め、説得力ある流れをつくった。ここでもロックに匹敵するクールな感触と、入り組んだところを慈しみながら丁寧に解きほぐす姿勢とが交互に現れ、奥行きのある解釈を聴かせた。舞台姿も山本耀司の黒い衣装にピアス、ほんの少しカラーのハイライトを入れたヘアに至るまで自身のセンスで整え、ひとつのトータルな世界を表現する。静かなアンコールでのクールダウンも、狙い通りにキマった。「ピアノ界のディヴィッド・ボウイ」となるかもしれない。

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