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  • 池田卓夫 Takuo Ikeda

エッティンガー&東響、異形の「幻想」

最終更新: 2018年10月21日


神奈川県民ホールの「アイーダ」終演が17時30分。サントリーホールの東京交響楽団(東響)第664回定期演奏会は18時開演。前半のワーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」は聴けないと踏み、客演指揮のダン・エッティンガーには3日前にミューザ川崎シンフォニーホールのリハーサル後に取材した際、「後半の『幻想交響曲』だけで、ごめん」と謝っておいた。横浜を出ると大雨。高速道路を飛ばすには危険な天候だから慎重に走り、目的地に着いたのが18時15分。東響の皆さんに「実は歌で2曲、アンコールがありますから、『ヴェーゼンドンク』が終わったらすぐ、ホールに入ってください」と言われた。イスラエルのドラマティック・メゾソプラノ、エドナ・プロホニクはどうやら巨艦大砲型の声の持ち主で、全盛期を過ぎているようにも思えたが、歌になんとも言えない味があり、R・シュトラウスの「献呈」、シューベルト(レーガー編曲)の「楽に寄す」は、うれしいプレゼントだった。


「幻想交響曲」は緩急の変化、ブルックナー顔負けのルフトパウゼ、第2楽章のハープ4台とコルネットの投入に象徴される華やかな音色の充満など聴きどころ満載で、演奏時間は55分を費やした。エッティンガーは長くベルリン州立歌劇場(シュターツオーパー・ウンター・デン・リンデン)で終身音楽総監督ダニエル・バレンボイムのアシスタントを務め、トーマス・ノヴォラツスキー芸術監督時代の新国立劇場オペラのピットで日本デビューした後、東京フィルハーモニー交響楽団常任指揮者も経験するなど、オペラとシンフォニーコンサートを早くから活動の両輪としてきた。現在はイスラエル・オペラ(テルアビブ)の音楽監督とドイツのシュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、バーデン=ヴュルテンベルク州都シュトゥットガルト市音楽総監督を兼ねている。「幻想」もフランス流の洒脱よりは、ドイツ語圏で実績を積んだカペルマイスター(楽長)のベートーヴェンからベルリオーズへと連なる交響曲の歴史への視点、多くのオペラも作曲したベルリオーズならではのドラマトゥルギーの強調、「僕はイスラエル生まれだけど、ルーツは100%ルーマニア人」という自身のバックグラウンドに由来する音の感覚など、どこまでもエッティンガー流を貫き、「異形」ともいえる鮮烈な再現を成就させた。なぜか第4楽章「断頭台への行進」が終わった瞬間、「ブラヴォー」と叫んだ人がいて驚いたが、興奮を誘う演奏だったのは確か。終演後の楽屋から出てきたところを写メでとらえ、会心の表情をアップする。


東響で最初に「幻想」を聴いたのは約40年前で、現在桂冠指揮者の秋山和慶の指揮だった。前半にオランダの名ソプラノ、エリー・アメリンクが共演し、モーツァルトとベルリオーズを歌ったのを覚えている。声楽と「幻想」のカップリングは今夜(2018年10月20日)も同じだったが、この間のオーケストラの力量向上には目覚ましいものがある。エッティンガーとは新国立劇場のピットで「コジ・ファン・トゥッテ」「サロメ」を共演したが、コンサートは初めて。ノットや秋山とはまた違う味わいの音色を東響から引き出し、相性は悪くないと思えたので、ぜひまた、共演してほしい。

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