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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

アリソン・バルサム・安土真弓&五十畑勉+斎藤龍・石上真由子&鈴木優人

クラシックディスク・今月の3点(2022年8月)


「クワイエット・シティ」

アリソン・バルサム(トランペット)、ニコラス・ダニエル(コールアングレ)、トム・ポスター(ピアノ)、スコット・スローマン指揮ブリテン・シンフォニア

私は吹奏楽経験者ではなく、ふだん金管楽器のソロアルバムを積極的に聴くこともない。ところが真夏日連続の間、何かキリッと冷えた白ワインのような音楽に触れたくて1978年生まれの英国人トランペット奏者、バルサムのアルバムを再生してみた。タイトルと同じコープランド作品、バーンスタイン「ロンリー・タウン」(《オン・ザ・タウン》の3つのダンス・エピソードから)、ガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」、アイヴズ「答えのない質問」とアメリカ音楽の逸品に続き、ロドリーゴ「アランフェス協奏曲」のアダージョ、ヴァイル「マイ・シップ」とギル・エヴァンズが盟友マイルス・デイヴィスのために編曲したレアなヴァージョンが現れる。とびきりクールな選曲、演奏にしびれ、聴き惚れた。バルサムは教育者、プロデューサー、コメンテーターだけでなく、ヨット・セーリングの名手としても知られているそうで、幅広いバックグラウンドが音楽の敷居も低くしている。2021年11月18〜20日、ロンドンのミルトン・コートでのセッション録音。

(ワーナーミュージック)


「ザ・ホルン・デュオ」

安土真弓、五十畑勉(以上ホルン)、斎藤龍(ピアノ)

さらに管楽器の録音に関心が向かい、妙な(失礼!)インパクトがあるジャケット写真、帯に引用された下野竜也(指揮者)の推薦文に引き寄せられて珍しいホルン二重奏のディスク を聴いた。安土は名古屋フィルハーモニー交響楽団(首席)、五十畑は東京都交響楽団のホルン奏者。いつもステージ後方に座り、けっこう厄介な仕事を地味に手がけている反動か、ジャケットに写る安土の花の髪飾り、五十畑の蝶ネクタイとも派手派手しいが、演奏の華やかさ、楽しさは全く負けていないどころか「ここまでやっていただけるなら、どうぞもっと派手になさってください」と言いたくなるほど素晴らしい。アルバム前半はR・シュトラウスの父でホルン奏者だったフランツ・シュトラウスをはじめとするホルンのオリジナル楽曲、後半はヘンデル、ドリーブ、ブラームス、フォーレ、ヴェルディ、ビゼーのオペラや歌曲の編曲、最後は再びカリヴォダの「2本のホルンとピアノのためのディヴェルティメント」、モーツァルト「ホルン協奏曲第4番」第3楽章(ティナ・ブレイン=かのデニス・ブレインの姪に当たるホルン奏者=編曲)で締める構成も良く考えられている。日本のオーケストラの管楽器セクションの充実を物語る1枚でもある。斎藤のピアノも、2人を感興豊かに支えている。2022年2月1〜3日、東京・東大和ハミングホールでセッション録音。

(ALM=コジマ録音)


ロベルト・シューマン「森の情景」作品82〜第7曲「予言の鳥」(ハイフェッツ編)

クララ・シューマン「3つのロマンス」作品22

ヨハネス・ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第1番」作品78

ロベルト・シューマン「3つのロマンス」作品94

J・S・バッハ〜ロベルト・シューマン「ヴァイオリンとピアノのための《シャコンヌ》」

石上真由子(ヴァイオリン)、鈴木優人(ピアノ)

テレビ番組での共演をきっかけに意気投合した新進演奏家2人の初デュオ盤。R・シューマンの「予言の鳥」もバッハの「シャコンヌ」もデュオ編曲版で、それぞれのソロは1曲もない室内楽アルバム。歴史的に有名なロベルト&クララのシューマン夫妻とブラームスの〝三角関係〟に楽譜からメスを入れるような鋭い演奏といえ、とりわけ冒頭の「予言の鳥」には文字通り〝鳥肌〟が立った。アルバムタイトルは「ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番」であり、原題に即してピアノ、ヴァイオリンの順に記し、第3楽章に引用されたブラームスの歌曲「雨の歌」に由来する愛称も作曲者自身の命名ではないためか、記載を見送った。後世の添加物や憶測をことごとく排し、純粋かつ冷静に音楽面から3人の作曲の背景、個性、相違点などを探ろうとする姿勢においても、21世紀(作曲家たちの2世紀後)を生きる演奏家2人にふさわしい卓越した仕事ぶりだ。2022年3月7〜9日、群馬・高崎芸術劇場音楽ホールでセッション録音。

(DENON=日本コロムビア)



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