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  • 執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

びわ湖ホール《W10》(ワーグナー10作品上演)完結、沼尻芸術監督有終の美


2023年3月5日「W10」完走のカーテンコール 写真提供=びわ湖ホール

びわ湖ホール プロデュースオペラ ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》


セミステージ形式演出=粟國淳、管弦楽=沼尻竜典指揮京都市交響楽団(コンサートマスター=石田泰尚)、合唱=びわ湖ホール声楽アンサンブル


ハンス・ザックス=青山 貴(バリトン)

ファイト・ポークナー=妻屋秀和(バス)

クンツ・フォーゲルゲザング=村上公太(テノール)

コンラート・ナハティガル=近藤 圭(バリトン)

ジクストゥス・ベックメッサー=黒田 博(バリトン)

フリッツ・コートナー=大西宇宙(バリトン)

バルタザール・ツォルン=チャールズ・キム(テノール)

ウルリヒ・アイスリンガー=チン・ソンウォン(テノール)

アウグスティン・モーザー=高橋 淳(テノール)

ヘルマン・オルテル=友清 崇(バリトン)

ハンス・シュヴァルツ=松森 治(バス)※

ハンス・フォルツ=斉木健詞(バリトン)

ヴァルター・フォン・シュトルツィング=福井 敬(テノール)

ダフィト=清水徹太郎(テノール)※

エファ=森谷真理(ソプラノ)

マグダレーネ=八木寿子(メゾソプラノ)

夜警=平野 和(バス・バリトン)

※…びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー


沼尻が2007年に若杉弘の後を受け、びわ湖ホール第2代芸術監督に就いて以降「プロデュースオペラ」の枠で手がけてきたワーグナーのオペラの数が10作品に到達した。2023年3月末で退任する沼尻はゲストの韓国人テノール2人のマイスターを除き、全員が日本人という思い切った配役で、実に見事な《マイスタージンガー》を奏で、有終の美を飾った。


傑出していたのは深々とした美声と若さの残り香をたたえた青山ザックス、往年の〝イケメン〟バリトンのイメージを自ら激しく叩き壊してコメディの才能を爆発させた黒田ベックメッサー、美声と舞台空間全体を切れる動きで精彩を放った大西コートナー、お喋りで世話好きのキャラクターを見事なドイツ語で際立たせた八木マグダレーネ。ウィーン・フォルクスオーパーなどで場数を踏む平野の夜警は、出番が1場面しかないにもかかわらず、やや慎重に思えた舞台の進行を一変させるほどのアクセントを与え、恐るべき存在感を示した。


すでに還暦(60歳)を過ぎた福井のシュトルツィングも見事な歌だったが、随所ににじむしみじみとした情感には、若者ワルターより老練なザックスにふさわしい響きがあった。福井にとしても、有終の美を飾る公演だろう。過去30年以上にわたり日本各地の舞台に主役として立ち続け、ドイツ、イタリア、フランス、日本…と、あらゆる文化圏のオペラに水準以上の歌を聴かせてきた福井の偉大さは、いくら称賛しても足りないが、そろそろ真剣に後継者を育てないと、この先のオペラ界の発展がおぼつかない。


びわ湖のオペラ上演に欠かせない、自前の声楽アンサンブルの合唱は立派だった。そこから全国に進出した清水のダフィトも高水準の歌唱であり、初代監督の若杉がびわ湖に託したオペラの夢が一つずつ実を結びつつある。それを立派に開花させたのも、沼尻の手腕だろう。


沼尻が指揮する京都市響はステージ後方、独唱と合唱の間に並び、ワーグナーにしてはやや小ぶりのサイズから多彩な音のニュアンスを浮かび上がらせる。歌との〝からみ〟も舞台上演の「ピットvs舞台上」の対峙ではなく、どこまでも室内楽的に繊細な交感を基調としており、日本人の演奏の長所を存分に発揮させた。管弦楽だけの部分が非常に細かく聴き取れた結果、ワーグナーが《マイスタージンガー》にもかなり近代的な響きを与えていた実態が、いつもより明瞭に伝わっていた。


沼尻&びわ湖の「W10」(ワーグナー10作)の白眉はなんと言っても、2016ー2019年度に上演した《リング(ニーベルングの指環)》4部作(《ラインの黄金》《ワルキューレ》《ジークフリート》《神々の黄昏》)だろう。すべてミヒャエル・ハンペ(演出)とヘニング・フォン・ギールケ(美術)コンビによるヴィジュアル、《リング》4部作の連続上演は関西初の快挙だった。《神々の黄昏》はコロナ禍勃発直後だったが、ホールの英断で無観客上演を敢行、動画配信が記録的なアクセス数を記録し、その年の数々の音楽賞を受賞した。ハンペは2022年11月18日に87歳で世を去り、沼尻も2023年3月31日で16年の任期を終える。実際には1998年の開館時から若杉の補佐役を務めていたので、びわ湖の仕事は四半世紀に及ぶ。日本オペラ界の変遷を振り返るにつけ、大都市とはいえない滋賀県大津市の県立劇場が全国に向けて発信したメッセージの大きさに、最大限の敬意を表したいと思った。

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