• 池田卓夫 Takuo Ikeda

ざわざわ楽しかった「ボンクリ2020」


藤倉大は作曲家として、素晴らしい円熟期にある。最新盤(ソニーミュージック)タイトルでもあるクラリネット・ソロのための作品「タートル・トーテム」で吉田誠の見事な演奏に触れて以降、2020年9月26日に東京芸術劇場が開く藤倉プロデュースの1日だけのフェスティバル「ボーン・クリエイティブ(ボンクリ)2020」が待ち遠しくて、仕方なかった。


同時代音楽はクラシック音楽を聴き込んだ大人たちから「難解」と敬遠されがちだが、小学生以下の子どもたちは音の動きに素直に反応し、面白がっている。「生まれたときは皆、クリエイティヴなのだ」=born creativeという主張をこめ、藤倉が同劇場と「ボンクリ」を始めたのは2017年。まだサラリーマン記者だった私も、インタヴュー記事を書いている:

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO15112270Q7A410C1000000?channel=DF280120166618&n_cid=LMNST011

今回は「音楽の友」12月号に報告記事を書く予定だ。



新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で外国からのゲストは藤倉本人も含め来日見合わせ。初の日本人だけの開催でどこまで集客できるだろうか?ーー事前の懸念は見事に吹き飛び、メインイベントの「スペシャル・コンサート」の客入りは良かった。藤倉の作曲では1曲目の「Gliding Wings」が端的に示したように、ピュアな響きを重ねながら、ごく自然な〝ザワザワ〟が現れ、より大きく心と共振する感触が心地いい。「この楽器の音は、こんなもの」という先入観をさらっと取り払い、音たちの新しいコミュニティーが生まれていく瞬間に立ち会えるのも楽しい。COVID-19対応のリモート演奏のために作曲した「Longing from after」のライヴ版は世界初演。藤倉もロンドンの自宅でキーボードを奏で、中継画像で〝参加〟した。


八木美知依「水晶の夢」は箏の弾き歌い。矢野顕子的浮遊感の声にからむ伝統楽器に時折、ロックギタリストが好んで使う揺らぎのテクニックなどが現れ、ニヤッとさせられる。ドイツのハイナー・ゲベルスの「ピアノと打楽器、声のための《サロゲイト》」にはラッパーのダースレイダーが加わり、破壊的効果を発揮した半面、何の言葉を叫んでいるのかさっぱり分からず、謎は謎のまま終わった。牛島安希子の「Distorted Melody」は日本初演だが、自分にはチック・コリアとゲイリー・バートンが組んでいた時代の「白いジャズ」バンドの響きばかりが思い出され、新鮮とは聴こえなかった。蒲池愛&永見竜生の「グラスハープとライブエレクトロニクスのための《between water and ray》」は耽美の刃が時々、グサリと心に刺さる。今年5月に急逝、ボンクリにも関わった蒲池を追悼する1曲でもあった。


大友良英の新作初演では幼稚園から中学生くらいまでの子ども13人(ノマドのメンバーの子どもたちらしい)が「ノマド・キッズ」のチーム名で入れ替わり立ち替わり現れ、それぞれの身体表現でアンサンブル・ノマドや吉田誠をはじめとする当日の演奏者ほぼ全員のオーケストラ?を鳴らしたり、止めたりする。「子どもとペットには勝てない(Nobody could overcome kids and pets)」の例え通り、キッズの即興的破壊力が会場を沸かせた。大きくなるほど照れが出たり、策を弄したりする実態をまざまざと目撃し、「ボンクリ」の原点に思いが至る。ノマドの弦楽四重奏にリーダーのギタリスト、佐藤紀雄が語りで加わる坂本龍一の近作「パサージュ」(日本初演)は、静かな音の反復を通じ、明確なメッセージを放つ。前後の大友、藤倉が大編成だったので(坂本の意図に合うのか背くかは分からないけど)、かなりのヒーリング効果を発揮した。


これだけ雑多&多彩な作品群を超一流の演奏者で聴ける、面白いコンサートを楽しんだ。次の藤倉大は新国立劇場が委嘱した新作オペラ「アルマゲドンの夢」の世界初演(11月)。

藤倉にとって3作目のオペラだが、日本からの発信はこれが初めてだ。今の状況下でも何とか規模を矮小化せず、堂々の舞台芸術に仕上げてほしいと願う。

https://www.nntt.jac.go.jp/opera/armageddon/


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