フランスのフルートの大家、マクサンス・ラリューは1934年生まれ。今年84歳になる。呼吸をそのまま楽器に当てる管楽器奏者が高齢まで活躍することだけでも大変なのに、数年前には生死の境をさまよう大病も患った。今年5月に「最後の日本公演か」と噂されつつ行ったツアーでは見事な復活を印象付け、若い世代の奏者からは滅多に聴かれなくなった、肉声のような味わいに富む音色で魅了した。あまりの好評に日本の弟子、東條茂子が楽器商の支援を引き出し、わずか4ヶ月での再来日を実現させた。東京公演の会場、前回は浜離宮朝日ホールだったのに、今回は300人も多く入る紀尾井ホールが満席となった。
前半はJ・S・バッハがテレマンに替わった後、シューベルトの「ソナチネ」、東條との共演でモーツァルトの「2本のフルートのためのソナタ」。後半はドビュッシーの「シリンクス」「ビリティスの歌」、ラヴェルの「ハバネラ形式の小品」、フォーレの「子守歌」「ファンタジー」。東條は自身の出番を1曲にとどめ、ホステス役に徹しながら、師譲りの音楽をきちんと奏でた。鷲宮美幸の控えめながら、楽曲ごとの様式を描き分け、骨格のしっかりしたピアノを得て、ラリューは心ゆくまで自身の信じる音楽を奏でる。前半のドイツ=オーストリア音楽では自身を厳しく律し、後半のフランス音楽では手綱を幾分か緩め、洒脱な身のこなし、絶妙な歌い回しが独特の色彩と香気を放つ。高齢だが、技に大きな破綻はなく、きびきびしたテンポで前へ前へと進む。今回も「至芸」の極みで、幸せな気分に浸れた。
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