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執筆者の写真池田卓夫 Takuo Ikeda

いわきのコバケンから伊那の「夕鶴」

今月のパフォーマンス・サマリー(2024年6月)


懐かしい日本への思いは音楽にも現れる

2日 第43回飯塚新人音楽コンクール・ピアノ部門本選の審査員(飯塚市民文化会館コスモスコモン)

4日 新国立劇場「コジ・ファン・トゥッテ」 (オペラパレス)⭐️

5日昼 エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団 (東京芸術劇場コンサートホール)🎻

5日夜 サントリーホール・チェンバー・ミュージック・ガーデン(CMG)小菅優プロデュース (ブルーローズ)❤️

6日 藤原歌劇団創立90周年記念パーティー&ミニ・コンサート(帝国ホテル)

8日 園田隆一郎指揮パシフィック・フィルハーモニア東京&クワイヤ ヴェルディ「レクイエム」(東京芸術劇場コンサートホール)🍏

9日 阪田知樹(ピアノ)(静岡音楽館AOI)❤️

11日 CMG ウェールズ弦楽四重奏団(ブルーローズ)

12日 延原武春指揮大阪交響楽団&合唱団 (ザ・シンフォニーホール)❤️

14日 セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団、ダン・タイ・ソン(ピアノ)(サントリーホール)🐶

16日 CMGフィナーレ(ブルーローズ)❤️

17日 SOS子どもの村JAPAN支援チャリティーコンサート マッシミリアーノ・ムラーリ(指揮&ピアノ)服部響子(ソプラノ)、加藤のぞみ(メゾ・ソプラノ)、村松稔之(カウンターテナー)、加耒徹(バリトン)(豊洲シビックセンターホール)

18日 小川典子&福間洸太朗(ピアノ)(東京文化会館小ホール)

20日 阪哲朗指揮山形交響楽団&合唱団、辻彩奈(ヴァオリン)、上野通明(チェロ)ほか (東京オペラシティコンサートホール)

21日 石井楓子(ピアノ) (トッパンホール)🍏

22日 小林研一郎指揮ブダペスト交響楽団、亀井聖矢(ピアノ)(いわきアリオス大ホール)

23日 シュレーカー「歌劇《クリストフォロス》」日本初演 (清瀬けやきホール)

24日 チョン・ミョンフン指揮東京フィルハーモニー交響楽団、務川慧悟(ピアノ)、原田節(オンドマルトノ) (サントリーホール)

25日 ヤニック・ネゼ=セガン指揮METオーケストラ、エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)、クリスチャン・ヴァン・ホーン(バスバリトン)🐶

26日 ヤニック・ネゼ=セガン指揮METオーケストラ、リセット・オロペサ(ソプラノ)❤️&🐶

28日 黒岩英臣指揮東京フォルトゥーナ管弦楽団、黒岩悠(ピアノ)ほか (東京オペラシティコンサートホール)❤️

29日 「男はつらいよ 50 お帰り寅さん」シネマコンサート、岩村力指揮東京フィルハーモニー交響楽団 (東京国際フォーラム ホールA)

30日 伊那市民オペラ「夕鶴」團伊玖磨生誕100年記念 (長野県伊那文化会館大ホール)

※❤️は「音楽の友」、🍏は「モーストリー・クラシック」、🎻は「サラサーテ」、🐶は「毎日クラシックナビ」、⭐️は「オン★ステージ新聞」に記事またはレビューを執筆


飯塚(福岡県)に始まり静岡、大阪、いわき(福島県)、伊那(長野県)と移動の多かった1か月。豪華絢爛で高水準という点では現在の音楽監督、ヤニック・ネゼ=セガンとの組み合わせでは初、オペラを含めた日本公演としても13年ぶりのメトロポリタン歌劇場の管弦楽団「METオーケストラ」が断トツだった。素晴らしい独唱者2人を得たバルトークの歌劇《青ひげ公の城》演奏会形式上演の見事さは長く記憶に残るだろう。日本のオーケストラにここまでの色彩感と迫力はまだなかなか期待できないだろう、などと失礼なことを考えていたら、チョン・ミョンフンと東京フィルがメシアンの《トゥーランガリラ交響曲》で極彩色ばかりか「香り(アロマ)」のような感触まで現出させて、ほとほと感心した。ベテランの脱力した至芸という点では、セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響の定期に出演したダン・タイ・ソンのモーツァルトも素晴らしかった。80代のマエストロ4人、エリアフ・インバルと延原武春、小林研一郎、黒岩英臣の音楽もそれぞれ、実に味わい深い。黒岩は引退を宣言、東京での指揮は今回の「第九」が最後だった。中堅世代の園田隆一郎、阪哲郎はオペラの世界の人であり、オーケストラ演奏会でも独唱、合唱を交えた声楽曲で真価を発揮した。


サントリーホールのチェンバー・ミュージック・ガーデンでは年々、小菅優や吉田誠(クラリネット)、金川真弓(ヴァイオリン)ら日本人演奏家の力量や企画センスに瞠目する場面が増えている。今年はウェールズ弦楽四重奏団が従来の常識にとらわれない、弱音から発想したユニークなベートーヴェン全曲で賛否両論を巻き起こして、とても頼もしいと思った。


オペラではシュレーカーのナチスに葬り去られた作品(クリストフォロス)の日本初演が貴重だったし、演奏水準も予想以上に高かった。伊那谷に鳴り響いた《夕鶴》は主役つうの中江早希(ソプラノ)をはじめ独唱者をバッハ・コレギウム・ジャパンの常連で固め、演出にイタリア帰りの新進の奥村啓吾、指揮に横山奏とフレッシュな人材を起用したことが成功。宗教音楽にたけたソリストたちの歌はヴィブラートが少なくて透明度が高く、歌詞がくっきりと伝わり、作品から新たな輝きを引き出した。これは團伊玖磨生誕100年を記念した催しでもあったが、松竹が企画した「男はつらいよ」のシネマコンサートも山本直純の作曲家としての力量を広く伝え、再評価を促す優れた催しだった。5,000人のホールが完売、93歳の山田洋次監督や83歳の倍賞千恵子らが客席に現れてスタンディング、歓声に包まれる光景を眺めつつ「みんなで何かを一緒に楽しむ」という昭和の大衆文化のあり方に思いを馳せた。

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