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「慶太楼の夏2021」の締めくくりは、東京ニューシティ管デビューのロシア物

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

原田慶太楼と東京ニューシティ管弦楽団(2022年4月からパシフィック・フィルハーモニア東京)の初共演が2021年10月6日、東京芸術劇場コンサートホールの第142回定期演奏会で実現した。R=コルサコフ「スペイン奇想曲」、グラズノフ「アルト・サクソフォーンと弦楽オーケストラのための協奏曲」(独奏=上野耕平)が前半、チャイコフスキー「交響曲第4番」が後半のロシア音楽特集。今回は公演プログラムに執筆、楽曲解説の他に原田とロシア楽派の関係、日本人のロシア音楽好きについて書き、グラズノフとチャイコフスキーの同曲の組み合わせが今年の日本で〝流行〟している実態も紹介した。コンサートマスターは首席の執行恒宏、第1ヴァイオリン12人の編成で対向配置をとった。正指揮者のポストを持つ東京交響楽団以外へも積極的に客演、相変わらず大活躍だった原田の夏はこれで終わり、明日(10月7日)には音楽監督を務める米ジョージア州のサヴァンナ・フィルハーモニックに向けて渡米する予定という。


チューニングを終えてすぐ、執行が楽器を構えたので「あっ、またやるな!」と思った通り、原田は拍手がやむ前にいきなり《スペイン奇想曲》を振り出した。最近あちこちの楽団で試している、指揮台を置かず各セクションと密接にコミュニケーションをとる手法をここでも採用した。演奏会の幕開けを意識、攻めの姿勢で一貫する運びは良い意味のショウマンシップに溢れ、ホール全体が華やかな雰囲気に包まれた。続くグラズノフ。上野のソロは相変わらず、上手い! 単にテクニックが切れる、弱音から強音までムラなく音が広がる、大ホールを満たす豊かな響き…といったハイスペックを超え、ソリストの存在感、グラズノフと指揮者、オーケストラ、聴衆を一体につなぐコミュニケーター能力が一段と高まり、ややつかみどころのない作品を極めて魅力的に再現した。原田がつくる弦楽合奏の絨毯もロシア音楽ならではの温かさに満ち、フワーッと夢みるような時間が流れた。


チャイコフスキーの「第4」には「もう少し弦の人数が多ければ」と思う瞬間もあったが、小ぶりな人数のヴァイオリンを左右に分けた対向配置がチャイコフスキーの〝筆致〟の解像度を高め、ピアニッシモの集中と情感を強調できたメリットも指摘しておくべきだろう。原田は指揮棒を持たず、第3楽章は顔の表情だけで殆ど振らず、チャイコフスキーの屈折した感情の振幅の再現に全力をあげた。第1楽章と第3楽章それぞれの中間部の静かな部分でのゆっくり丁寧な語りかけ、第2楽章の深いメランコリー、第4楽章の緩急のコントラストなど時間をかけて深めた内面性の再現が確かな説得力を発揮した。木管、金管のソロの魅力、重奏の厚みにも事欠かず、かなり聴き応えのあるチャイコフスキーに仕上がった。初共演は成功だったといえる。





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