• 池田卓夫 Takuo Ikeda

「コンサートの再開方法を教えてください!Vol.2」新倉瞳と樋口達哉が熱戦!


4人の出演者(上)と3人の仕掛人(下)

企画会社CAPの坂田康太郎社長、日本ヴァイオリンの中澤創太社長、Hakujuホールの原浩之支配人の3人が発案、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)一服後の活動再開をにらむ独自の試みとして、全国で最も早く開催(2020年6月14日)に踏み切ったリサイタル・シリーズ「コンサートの再開方法を教えてください!」。その「Vol.2」が7月5日、東京・富ヶ谷のHakujuホールであった。奇しくも東京都知事選挙投票日。運動期間中は感染者急増にも大した策を講じられなかっただけに今後の状況、都知事の方針次第では「自粛」に逆戻りする懸念もある際どいタイミングでの公演となった。最大300人収容の規模に対し前回が70人、今回が90人と少しずつ定員を増やしながら、さらなる展開を目指している。



Vol.2も前回と同じく前半がチェロ、後半が声楽で、曲目は写真に掲げた通り。新倉瞳(チェロ)と梅村百合(ピアノ)のアンコールはエルガー「愛の挨拶」とカタルーニャ民謡(カザルス編曲)「鳥の歌」。樋口達哉(テノール)と金井信(ピアノ)がトスティ「可愛い口元」とプッチーニ「歌劇《トゥーランドット》〜カラフのアリア《誰も寝てはならぬ》」。最後に金井の編曲とピアノで樋口と新倉が共演、村松崇継の名曲「いのちの歌」で締めた。2組とも3ー4か月ぶりにコンサートホールの舞台に立ち、「無」ではなく「有」の観客と対面する緊張感、あるいは「おこもり後遺症」なのか、最初はなかなかペースをつかめず腐心している様子がうかがえた。新倉の〝天然トーク〟は迷走気味だし、樋口の〝熱血トーク〟は暴走気味だが、それぞれ今日の機会を授かったことの喜びと感謝の結果だから、微笑ましいものだ。


新倉はブラームスの半ばで俄然エンジンの回転数を上げ、ドイツの少女時代を共有する盟友でもある梅村のピアノともども、ジェンダー(性差)的に良い意味で、女性ならではのエモーションの大爆発に至った。ラフマニノフは偶然にもVol.1で笹沼樹が全曲を弾いたのと同じ曲だが、新倉は同じ作曲家の歌曲編曲の「ヴォカリーズ」からソナタの第3楽章を1つの世界として表現、呼吸の深い歌の世界を弦楽器で描き、後半の生声への橋渡しもした。


樋口は1890年代イタリアの血生臭いヴェリズモ(写実主義)オペラのアリアに的を絞り、今を盛りのプリモウォーモの美声を惜しみなく全力投球でふりまき、ホール全体を震撼させた。長く「王子」と呼ばれてきたキャラクターに風格が備わり、日本を代表するテノールの1人として東日本大震災後(樋口は福島県出身)と同じく、コロナに傷ついた人々の心を熱いハートの歌声で癒していくはずだ。元々イタリア留学組で現地オペラハウスの合唱団にも所属していたからイタリア語の発音は優れているが、久しぶりに聴いて、言葉の1つ1つにより気持ちがこもり、一段と明確に響くようになったと感心した。


最後は極めて私的な雑感:先週は東京文化会館で「4人のテノール」。今日も、テノール。基本的に明るい性格の方が多く、行き過ぎのあまり「テノール✖️✖️(伏字)」の差別用語?も存在するようだけど、今の湿っぽい世界には絶対に必要だろう。暗く湿った気分を一掃、「ある日ながめた青空」へ持っていってくれる限り、私はテノールの味方でいようと思う。

283回の閲覧

© 2018 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

  • Facebook Social Icon
  • Twitter Social Icon